今回この記事では、カヌー部の活動を通じた高校生の青春小説である『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』について、感想・書評を中心に紹介します。
著者の武田綾乃さんはこの作品以外にも、テレビアニメ化、映画化された『響け!ユーフォニアム』シリーズで高校生の部活動を通じた青春小説を執筆されています。それとはまた違った物語ですが、武田綾乃さんは、高校生の心情や関係性の描写などが非常に上手ですので、青春小説が好きな皆さんに是非おすすめしたい作品です。
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【プロフィール】著者:武田綾乃(たけだあやの)さんについて
今回紹介する『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』の著者である武田綾乃さんは、1992年京都府宇治市の出身で、宇治市立東宇治中学校、京都府立嵯峨野高等学校、同志社大学文学部美学芸術学科を卒業されています。
自分と同じ京都府出身の綿矢りささんの『蹴りたい背中』を小学生の頃に読んで、小説家に憧れるようになり、高校では文芸部に入部し小説を書き始めるようになったそうです。他にも、辻村深月さんの『凍りのくじら』からも大きな影響を受けているとのことです。この両作品についても今度読んでみて記事にしたいと思ってます。
そんな武田綾乃さんは、2012年に宝島社主催の新人賞である日本ラブストーリー大賞に大学在学中に応募した『今日、君と息をする。』が最終候補作に選ばれ、翌年2013年に同作が宝島社文庫として出版されて作家デビューを果たしています。
そして同年刊行した『響け!ユーフォニアム』はテレビアニメ化、映画化され、名実ともに武田綾乃さんの代表作となりました。私も全作読んですっかりファンになってしまいました。武田綾乃さんは、小学校から金管バンドでユーフォニアム、中学では吹奏楽部に入って低音のチューバとユーフォニアムを担当されていたそうで、この5年間の活動経験があったからこそ『響け!ユーフォニアム』シリーズが生まれたのだと想像すると感慨深いですね。自分の人生経験を何に活かすのかも自分次第って思えます。ちなみに『響け!ユーフォニアム』シリーズのアニメの続編がついに制作、放送されるようです。めちゃめちゃ楽しみにしてます。
そして、2019年に『その日、朱音は空を飛んだ』で第40回吉川英治文学新人賞候補、2021年に『愛されなくても別に』で第42回吉川英治文学新人賞を受賞されており、着実に実績を積み上げていらっしゃいます。
上記に挙げた作品も含め、以下の作品を執筆されており、私個人としては今後かなり期待をしている作家さんです。
- 『今日、君と息をする。』
- 『響け!ユーフォニアム』シリーズ
- 『君と漕ぐ』シリーズ
- 『石黒くんに春は来ない』
- 『青い春を数えて』
- 『その日、朱音は空を飛んだ』
- 『どうぞ愛をお叫びください』
- 『愛されなくても別に』
- 『世界が青くなったら』
- 『バブル』
- 『嘘つきなふたり』
宣伝用アカウントとしてTwitterもやられているので、興味のある方はフォローしてみてください。
【登場人物、あらすじ、アニメ化作品】『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』について
君とならきっと、もっと速くなれる!
両親の離婚で引っ越してきた高校一年生の舞奈は、地元の川でカヌーを操る美少女、恵梨香に出会う。たちまち興味を持った舞奈は、彼女を誘い、ながとろ高校カヌー部に入部。先輩の希衣と千帆は、ペアを組んで大会でも活躍する選手だったが、二人のカヌーに取り組む気持ちはすれ違い始めていた。恵梨香の桁違いの実力を知り、希衣はある決意を固めるが。水しぶき眩しい青春部活小説。
引用元:新潮文庫『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』裏表紙より
本作品はカヌー部という部活動を通じて少女達のカヌーに対する気持ちと行動を描写した青春小説です。
両親の離婚という事情により父と引っ越してきた高校一年生の黒部舞奈、黙々と地元の川でカヌーを操る湧別恵梨香、小さい頃より大会で成績を残してきた先輩選手の鶴見希衣と天神千帆という4人を中心に、カヌー部の大会に対する気持ちのすれ違いやそれぞれの決意を通じて、高校生の部活動を丁寧に描写しています。
本作品は、舞奈が父と引っ越しをしてきて、川でカヌーを操る恵梨香と出会うところから始まります。そして、舞奈と恵梨香は同じ高校に入学することがわかり、一緒に自転車通学を始め、高校ではカヌー部に入部することを決めます。カヌー部は、二人が入学する前年に先輩の希衣と千帆が創部した部活動で、ここから4人のカヌー部の部活動が始まります。
カヌー初心者の舞奈、大会に出ず黙々と地元の川でカヌーを操ることにより自然と高い技術を身につけた恵梨香、小さい頃から大会に出てきたが気持ちがすれ違い始めている希衣と千帆という4人のそれぞれの気持ちと行動が描かれながら、カヌー天才少女の利根蘭子との登場なども通じて、各自想いを胸にして最初の大会に臨みます。
単純に大会での良い結果を期待しながら読むもよし、部活動にありがちな気持ちのすれ違い(結果を出したい人と楽しみたい人のすれ違い)にヒヤヒヤしながらどうなっていくのかを想像しながら読むもよしと、青春小説としての楽しみどころは多い作品で、続編をすぐに読みたくなる終わり方にもなってますので、一気に最終巻まで読むのもおすすめです。
また、本編のアニメ化ではありませんが、NHKの『アニ×パラ~あなたのヒーローは誰ですか~』の第16弾としてアニメ化されています。
『アニ×パラ~あなたのヒーローは誰ですか~』は、パラスポーツ界で活躍するアスリートたちのオリジナルストーリーを描いたアニメシリーズです。こちらも興味のある方は是非視聴してみてください!
【感想、書評】『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』を読んで感じたこと
この本を読んだきっかけは、武田綾乃さんの本をいくつか読んで、武田綾乃さんの他の作品紹介を見て興味が沸いたからです。武田綾乃さんの作品は、高校生を中心に比較的若い年代を主人公として描かれている作品が多い印象で、自分の学生時代を思い出しながらストーリーに没入できるところが好きなので手に取って読んでみました。
この物語は、カヌーという日本では比較的認知度の低い競技の部活動を通じてストーリー展開される部活小説です。カヌー初心者の舞奈、小さい頃からの経験者の希衣と千帆、競技未経験ながらもダントツの能力を持つ恵梨香と、バックグラウンドがバラバラな4人が、カヌー競技の部活動の中でどう葛藤し成長していくかがとても興味が持てる作品です。
登場人物のそれぞれのキャラクターもちゃんと確立されており、こういう人いたなあと過去を思い出しつつも、読んでいるうちにこの登場人物たちの輪に入って行きたくなるような没入感がありました。文中に自然とカヌー競技の最低限の説明がされており、カヌー競技の知識がなくても、何の抵抗感を感じることなくストレスなく楽しめる作品です。
私がいいなと感じた点は、以下3点です。
- 大学時代に、私も比較的認知度の低い競技をやっていたので、過去を思い出しながら感情移入しながら楽しむことができた。
- 高校生の複雑な感情を共感できる表現で描写されている。
- 景色の描写もとても綺麗に表現されていて、物語の場面をイメージしやすい。
それぞれの登場人物の複雑な感情、気持ちがどう変化していき、ながとろ高校カヌー部の4人の関係性がどれだけ成熟していくのかが1番気になっています。個人的にはカヌー初心者の舞奈がどれだけの上達をしていくのかが気になってます。
感情表現や景色描写など独特の表現だなあと思う一方で、だからといって読みにくさを感じることもなく自然と物語の場面をイメージしやすい作品になっていて、とても読みやすい作品だと感じました。また、今まであまり身近でなかったカヌー競技について、もっと知りたいという気持ちにもなりました。
続編がある作品ではありますが、この巻だけでも一定の満足感が得られるのと、自然と次作が気になる作品となっていますので、学生もの、部活ものが好きな方には是非読んでもらいたい作品です。
レビューサイトでの評価をまとめてみました。非常に読みやすく、カヌーの知識がなくても、大自然の描写や高校生の心情描写によりカヌー部の活動に没入できるという意見が多かった印象ですが、読みやすい反面、中身の薄さが気になったり、カヌーの描写が不足しているような印象を持たれた方もいるようです。不足を感じる部分については続編も含めた全体構成として期待したいですね。
良い評価(他レビューなどから抜粋)
- 登場人物の一人一人が生き生きとしていて、お互いがわかりあおうと努力し、わからない部分は尊重しあおうとする関係性。
- 文章が読みやすく、飽きずに最後まで読み進められる。
- カヌーという題材が新鮮で、選手だけでなくカヌーに関わる様々な人々の喜びが描かれている。
- カヌーのことを知らなくても一つ一つの描写が丁寧で抵抗なく読むことができ、読後はカヌーの試合を見てみたいと思った。
- 大自然の風景描写や、登場人物がカヌーを漕ぐ様や景色の描写が素晴らしく、ながとろのせせらぎや雄大な景色が目に浮かび、物語に引き込まれた。
- 高校生という多感な年頃の気持ちがしっかりと表現されており、昔の自分と重ねながら読むことで、大人になっても青春を感じることができる。
- 表紙などおとないちあきさんのイラストが素敵。
悪い評価(他レビューなどから抜粋)
- 物語のポイントが定まらず、あまりメリハリがないので、あっさりし過ぎていてストーリーの起伏の乏しさを感じた。
- シリーズもの前提で書かれているので、1冊の本としてのまとまりは少し薄い。
- カヌーに関する描写が未経験者としてはイメージしづらく、ルール説明と主観描写だけでなく、水面の近さや風を切る感覚などを感じるような描写で、カヌーに乗った気にさせて欲しかった。
- スマホを持っていない高校生の設定自体に違和感を感じ、登場人物が高校生らしくないと感じた。
【発行、カバーなど】『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』の関係者の方の紹介
私が読んだ新潮文庫の著者以外の情報は以下の通りです。
発行者:佐藤 隆信
発行:株式会社新潮社
印刷所/製本所/カバー印刷:錦明印刷株式会社
フォーマットデザイン:川谷デザイン
イラスト:おとないちあき
デザイン:川谷 康久(川谷デザイン)
まとめ
今回は、武田綾乃さんの『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』について、感想・書評を中心に紹介しました。
カヌー部という部活動を通じて、高校生の心情や関係性を非常に丁寧に描写されている作品で、読みやすい作品になっていますし、2023年に完結している作品でもあるので、一気読みなどもできる一押しの作品です!
他の作品についても以下に記載しましたので参考にしてください。武田綾乃さんの作品は個人的にはかなり好きなので、他の作品も記事にまとめていきたいと思います!
【おすすめ】武田綾乃さんの他の作品を読む観る
今回紹介した『君と漕ぐ』シリーズの著者である武田綾乃さんは、今回以外にも以下の作品を執筆されています。
この記事を執筆している時点でほとんどの作品を読みましたが、私個人的には高校生時代を描いた作品などが好物なので、どの作品も興味深く読めました。一部はスクールカースト的なダークな部分に焦点を当てた作品もあるので、読む人の好みにもよるかも知れません。
『君と漕ぐ』シリーズ
『響け!ユーフォニアム』シリーズ
代表作となった『響け!ユーフォニアム』シリーズです。アニメ化、映画化、コミカライズなど多方面展開されている作品です。個人的にはアニメ作品がかなりおすすめです。(主役の声優さんの声が好きです。)