小説

(あらすじ・感想)『高校事変』(2019年)をヨム!少女が銃を手にする理由と学園サバイバルの衝撃

高校生の少女が突如校舎で銃を手にテロリストと戦う──そんな衝撃的なシーンを想像できますか?『高校事変』第1巻は、平和な日常が一転して戦場と化す学園を舞台に、孤独な女子高生が武装集団に立ち向かう前代未聞のサバイバル・スリラーです。著者・松岡圭祐さんによるこの物語は、発売直後から読書好きの間で大きな話題を呼び、「校舎は日本の縮図と化した!」というコピー通り現代社会の闇を浮き彫りにするエンタメ小説として注目されました。読後には息もつかせぬアクションの興奮とともに、なぜ彼女は銃を手に戦うことになったのかという深いテーマへの問いが胸に残ります。本記事では、第1巻の魅力を存分に語りつつ、物語に隠されたテーマや読者の反応、今後の展開についても考察してみましょう。

著者紹介:松岡圭祐とは?

松岡圭祐(まつおか けいすけ)さんは、日本の人気小説家であり、エンターテインメント小説の名手です。1997年にデビュー作『催眠』を発表し、これがミリオンセラーとなる大ヒットを記録。以降、『千里眼』シリーズ(累計628万部超)、『万能鑑定士Qの事件簿』シリーズ(映画化もされた大ヒット作)、『探偵の探偵』(こちらもテレビドラマ化)など数々の人気シリーズを手がけてきました。松岡さんの作品は強い女性ヒロインが登場することが多く、現実の事件や社会問題を巧みに織り交ぜたストーリー展開が特徴です。

そんな松岡さんにとって『高校事変』シリーズは、2019年に第1巻が刊行開始された比較的新しいシリーズです。驚くべきはその執筆スピードで、2019年5月の第1巻発売以降、2023年までに本編だけで既に20巻以上(2025年現在22巻)刊行されるというハイペースぶり。しかも2023年には3か月連続刊行というファン垂涎のリリースも行われ、SNS上でも大きな盛り上がりを見せました。『高校事変』は松岡作品では初めて未成年(高校生)を主人公に据えたシリーズであり(これまでのヒロインは社会人が多かったそうです)、著者は「青春×バイオレンス」という新境地に挑んでいます。それでも随所に光るのは松岡作品らしい緻密な設定と社会派の視点。本作でもそれが遺憾なく発揮されており、読者を物語世界に一気に引きずり込む力となっています。

登場人物紹介

優莉結衣(ゆうり ゆい) – 本作の主人公。武蔵小杉高校に通う2年生の女子高生です。一見ごく普通の生徒ですが、実は「平成最大のテロ事件」を起こして死刑になった男の次女という重い過去を背負っています。その父・優莉匡太(ゆうり きょうた)は7つの半グレ集団を束ねて東京都内で猛毒サリンをばら撒いたテロリストで、結衣は幼い頃から父とその仲間たちに銃器や爆発物など殺しの英才教育を叩き込まれて育ちました。現在も公安に監視対象とされ、学校でも孤立気味の存在ですが、本人は極めて冷静沈着かつ頭脳明晰。いざという時には化学知識や武器の扱いに関する天才的な才能を発揮し、まさに“戦う女子高生”としての一面を持っています。善悪の判断も独自の基準で下し、自らの手で相手を生かすか殺すかさえ選択するという冷徹さも備えており、その姿は“ダークヒロイン”とも称されます。しかし根底には正義感と人間らしい情も併せ持ち、命がけで人々を守ろうとする姿は読者の共感と畏怖を同時に集めています。

濱林澪(はまばやし みお) – 結衣のクラスメイトの女子生徒。結衣とは普段接点が薄かったものの、物語序盤で発生した襲撃事件の中で偶然結衣と行動を共にし生き残ったことで強い友情が芽生えます。明るく平凡な少女でしたが、クラスメイトが次々と犠牲になる地獄を経験したことで心に大きな傷を負います。結衣の驚異的なサバイバル術に幾度も救われ、戦友とも言える絆が生まれますが、一方で彼女自身は戦いに積極的についていけるタイプではありません。事件後、日常に戻ったら結衣との関係も気まずくなってしまうのではと感じた彼女は…(※結衣と澪の関係がこの先どうなるかは、ぜひ本編で確認してください)。普通の少女と“異能”の少女という対比が鮮やかで、物語にリアリティと感情移入の糸口を与えてくれるキャラクターです。

柚木茉莉花(ゆずき まりか) – 武蔵小杉高校を訪問する女性国務大臣。60代とは思えない派手な厚化粧が印象的な政治家で、総理大臣の側近的存在として登場します。表向きは教育熱心な文部行政の一翼を担う人物ですが、その振る舞いからどこか不穏な空気を漂わせます。第1巻では詳述できませんが、彼女の存在が物語の鍵を握っており、事件の真相に深く関わる重要人物です。茉莉花という名前から連想される優美さとは裏腹に、非常時には冷酷な決断も厭わない胆力を見せる場面も…。読者からは「脳内で〇〇都知事みたいなビジュアルで再生された(笑)」という声も上がったほど印象的なキャラで、結衣にとって避けて通れない“大人の権力”を象徴する存在と言えるでしょう。

この他にも、結衣の通う武蔵小杉高校には訪問中の内閣総理大臣(物語冒頭で学校を訪れるVIP)、SP(セキュリティ警護官)、そして謎の武装グループのリーダー格などが登場します。教師や生徒たちも多数登場しますが、物語序盤での想像を絶する出来事により多くが悲劇的な運命を辿ることに…。キャラクターの名前や立場が一気に出てくるため「登場人物が多くてページを見返した」という声もありますが、その分学園全体が事件に巻き込まれるスケール感が演出されており、読者は「自分も校内にいるような臨場感」を味わうことになるでしょう。

あらすじ

平成から令和に移り変わろうとする春、神奈川県にある武蔵小杉高校はあるニュースで沸き立っていました。なんと現職の総理大臣が視察を兼ねて学校を訪問することになったのです。生徒たちは大はしゃぎですが、2年生の優莉結衣だけは少し複雑な心境でした。彼女の父親が過去に起こした凶悪事件のことを知っていた政府関係者は、「テロリストの娘」である結衣が総理と同じ場にいることを不安視します。そこで結衣は他の生徒と引き離され、総理との懇談会の時間は別教室で自習するよう言い渡されました。結衣にとっては不本意な措置でしたが、皮肉にもこの判断が後に彼女と学校の運命を大きく左右することになります。

やがて総理がSP(警護官)を従えて学校に到着し、校長や生徒会役員たちと和やかに懇談を始めました。しかしその矢先、突然校内に謎の武装集団が乱入し、あっという間に校舎を占拠してしまいます。彼らの目的は一体何なのか?総理大臣も居合わせたことで緊張が走る中、武装集団は銃を乱射し、生徒や教職員にも容赦なく襲いかかりました。たちまち校舎内は悲鳴と銃声が飛び交い、教室は地獄絵図と化します。この“高校ジャック”とも呼ぶべき未曾有の事態に、警察は校舎を包囲するものの、犯人グループは人質を盾にとって要求も明らかにしないため、下手に手出しできません。まさに八方塞がりの状況です。

一方その頃、別室で自習をしていた結衣は第一波の攻撃を免れ、偶然そこに逃げ込んできたクラスメイトの濱林澪と合流します。状況を把握した結衣は澪を守り抜くことを決意。幼い頃から叩き込まれた化学知識と武器のスキルを総動員し、校内に潜むテロリストたちに立ち向かい始めます。たとえば理科室にあった薬品で即席の爆発物を作ったり、倒した敵から奪った銃火器を巧みに使いこなしたりと、その戦闘能力はもはや高校生離れしたもの。怯える澪も結衣に支えられて必死に行動を共にし、“女子高生2人 vs 武装テロリスト集団”という前代未聞の死闘が繰り広げられます。

結衣の活躍により、次々とテロリストたちが撃退されていく痛快な展開。しかし依然として敵の真の狙いは見えません。武装集団はなぜこの高校を襲ったのか?なぜ総理が訪問しているこのタイミングだったのか? 要求を一切出さない彼らの目的とは…?やがて結衣は、事件の裏に隠されたある陰謀の存在に気付きます。それは単なるテロではなく、国家規模に及ぶ恐るべき計画の一端でした。クライマックスでは、思いもよらぬ黒幕の存在が浮上し、結衣たちの戦いは新たな局面を迎えます。果たして彼女は仲間と共に総理大臣と学校を救い出すことができるのか――?そして、“テロリストの娘”である結衣自身の運命は……?物語は最後までスリリングな展開が続き、読者をハラハラドキドキさせながらも、第1巻としてひとつの決着を迎えます(結末はぜひ実際に本書でお確かめください)。

感想

読了後、まず感じるのは「なんというスピード感!」という驚きでした。冒頭から事件発生までの展開が非常に早く、ページをめくる手が止まりません。まさに「スピード感があって映画を観てるよう」な臨場感で、一気読みしてしまったという読者も多いようです。私自身も、校内での銃撃戦や追跡劇のシーンでは息を呑み、頭の中で勝手に映像が再生されるような感覚を味わいました。結衣が化学室でとっさに作った即席の武器(具体的には伏せますが、その発想に脱帽!)で敵を翻弄する場面などは爽快感抜群です。一方で、机や廊下に散乱する同級生たちの無残な姿がこれでもかと描かれており、人によってはグロテスクに感じる描写もあります。実際「人めっちゃ死ぬ。グロい。けど読むのは止められない」という読者の声もあり、私も序盤の大量殺戮シーンは衝撃で思わず本を閉じそうになりました。しかし、それでも先を読まずにいられなくなるのが本作の凄いところで、不快感とスリルが紙一重の絶妙なラインで描かれているように感じます。

特に印象に残ったのは、主人公・結衣のキャラクター性です。彼女はヒロインでありながら、常識的な善人とは言い難いダークな一面を持っています。自らの手で敵を“処理”するときの冷ややかな判断力には背筋が凍る思いがしましたし、同時にその裏に隠された悲壮な覚悟も感じ取れて胸が痛くなりました。生かすか殺すかを自分の主観で決める彼女の姿には「ダークヒーローな感じ」という指摘もある通り、従来の高校生主人公像とは一線を画す重みがあります。それでも読み進めるうちに不思議と結衣を応援している自分に気付きました。たとえ手段が過激でも、弱き者を守ろうとする彼女の芯の強さや、時折見せる年相応の繊細さが伝わってくるからでしょう。絶体絶命の危機の中で、命を懸けて仲間(澪)を守り抜こうとする姿には心を打たれましたし、物語終盤で結衣が見せたある決断には、思わずほろりとさせられました。

また、本作のもう一つの魅力は物語に散りばめられた社会的テーマ風刺です。単なるドンパチのアクション小説かと思いきや、読み終えると「これは現代の日本社会を映した一種の寓話なのでは?」と感じさせられる部分が多々ありました。例えば、テロリストに占拠された学校という閉ざされた空間は、まさしく日本社会の縮図でした。生徒たちは無力な市民、教師は行政、そしてテロリストは暴力的な異分子と考えると、そこで繰り広げられるドラマは極端に誇張された現代社会の縮影にも見えてきます。実際、作中では自己保身に走る政治家や大人たちへの皮肉や、現実社会へのアンチテーゼを示唆する描写も随所にあり、「娯楽小説に見せかけて結構考えさせられる」というのが正直な感想です。特に、事件の黒幕に関わる動機や背景には思わず「こんなこと、現実の政治でも起こり得るのでは…?」とゾッとしましたし、そう思わせるリアリティと時事性が本作にはあります。

良かった点を挙げればキリがないのですが、あえて気になった点も述べておきます。先ほど触れたようにバイオレンス描写のキツさは好みが分かれるでしょう。人によっては読むのが辛く感じる箇所もあるかもしれません。また、ストーリー自体は突飛で現実離れしていることも否めませんが、そこは「エンタメ小説だから」と割り切れるかどうかで評価が変わりそうです。幸い私の場合は、著者がきちんと作中で「日本で起きるには荒唐無稽に見えるが、世界には10代で銃を取る若者もいる」という解説を入れてくれたおかげで、設定の説得力を感じながら読むことができました。むしろ「箱庭のように平和な日本だから荒唐無稽に思えるだけで、世界を見ればあり得る話なのだ」というメッセージにはハッとさせられました。登場人物の多さについては前述の通り少し戸惑う部分もありましたが、その点はシリーズが進むにつれ主要人物が絞られていくので、巻を追うごとに理解が深まると思います。

総じて、『高校事変』第1巻は「ページを捲る手が止まらない」とはこのことか!というほどのエンターテインメント性と、読後に色々考えさせるテーマ性を兼ね備えた秀作でした。個人的には星4.5/5★★★✦☆(5点満点中)をつけたい満足度で、すぐにでも第2巻以降を手に取りたくなること請け合いです。

考察・解説

『高校事変』が他の作品と一線を画すのは、単なるアクション小説に留まらず複数のテーマが複雑に絡み合っている点です。ここではその中からいくつかピックアップして考察してみましょう。

1. “家族”という呪縛と絆 – 結衣は「犯罪者の娘」であるがゆえに周囲から偏見の目で見られ、学校でも孤独な存在でした。これは彼女自身の人格や行いとは無関係に、親の罪が子に影を落とすという理不尽さを示しています。いわば「家族」という切っても切れない紐帯が、一種の呪縛として結衣を縛っているのです。しかし皮肉にも、結衣がテロリストたちに対抗できたのは他ならぬ父から仕込まれた“悪の才能”によってでした。悪しき血筋の力を善に転用するという彼女の戦いは、負の遺産との向き合い方を象徴しているように思えます。また、血の繋がりだけが家族ではないことも物語は示唆します。結衣と澪の間に生まれた固い友情は、過酷な戦場を生き延びた者同士の擬似家族的な絆ともいえるでしょう。第1巻のラストで結衣が下す決断(ネタバレになるので詳細は伏せますが)は、彼女なりの澪への思いやりであり、新たな“家族”の形を模索する姿にも見えました。家族の罪と絆というテーマは、この先の巻でも優莉四姉妹などを通じてさらに深掘りされていくので要注目ポイントです(シリーズが進むと、結衣に異母姉妹がいることも明らかになっていきます…!)。

2. 暴力と正義の相克 – 本作では暴力がこれでもかと描写されますが、その裏には「正義とは何か?」という根源的な問いかけが潜んでいます。結衣は自らの判断で敵を射殺することも厭いませんが、それは決して快楽殺人ではなく大義(仲間を守るため)のためです。しかし第三者から見れば、彼女の行為もまた法律を逸脱した暴力には違いありません。ここにあるのは、暴力による悪の制裁は許されるのかという命題でしょう。これは近年のフィクションでも度々取り上げられるテーマで、例えばアニメ『PSYCHO-PASS』ではテクノロジーによる監視社会の中、犯罪者を排除する暴力の是非が問われましたし、映画『告白』では復讐のために教師が制裁を下す物語が描かれました。『高校事変』でも結衣という若き“処刑人”の姿を通し、読者は正義と復讐の境界線について考えさせられます。彼女の行いは正当防衛と言えるのか、行き過ぎた自警なのか――。答えは簡単には出ませんが、作中で結衣が見せる一瞬の躊躇いや葛藤からは、彼女自身もその問いに向き合っていることが伺えます。暴力的な活劇の中にもこうした倫理的テーマが織り込まれている点が、本作を単なるバイオレンス小説に留まらない深みへと押し上げています。

3. 教育現場と大人への批判 – 舞台が高校であることも、本作に独特のテーマ性を付与しています。学校は本来、子どもたちを守り育てる場であるはずですが、本作ではその学校が政治利用され、挙句テロの現場になってしまいます。総理大臣がわざわざ高校訪問を行ったのは「支持率向上を狙ったパフォーマンス」に過ぎず、言ってみれば教育現場を大人の都合で利用した格好です。その最中に事件が起きたのは偶然ではなく、むしろ大人たちの身勝手さへの報いのようにも映ります。さらに、事件後の展開(第1巻終盤~次巻以降)では、結衣や澪といった被害者の少女たちが社会から偏見を受けたり、支援が行き届かなかったりといった理不尽も描かれます。これは現実社会において事件の被害者やその家族が二次被害に遭う問題にも通じ、著者は教育や社会福祉の未熟さをも提示しているのでしょう。そうした中で結衣という若者が立ち上がり、大人の腐敗に立ち向かう姿は、一種のカタルシスでもありつつ切ない現実批判でもあります。「子どもを守るべき大人が信用できないなら、自分たちで戦うしかない」というメッセージは、同じ学園ものの映画『告白』にも通じるものがあります(『告白』では教師が生徒に復讐する衝撃的なストーリーで、子ども vs 大人の構図が浮き彫りになりました)。『高校事変』はより直接的に銃撃戦という形を取っていますが、その本質には教育への警鐘大人社会への問いが秘められているように思われます。

4. リアルとフィクションの融合 – 先述の通り、本作には現実の事件や状況を想起させる要素が数多くあります。結衣の父が起こしたサリン散布テロは、オウム真理教事件(地下鉄サリン事件)を彷彿とさせますし、物語中盤で明かされる政府内の陰謀は実際に起こった政治スキャンダルを連想させる部分があります(具体名は避けますが、日本でも権力闘争や不祥事隠蔽は枚挙にいとまがないですよね)。著者の松岡圭祐さんはこれまでも『千里眼』シリーズで北朝鮮の工作船事件や同時多発テロなど国際的時事問題を取り入れてきた経緯があり、本作でもその手腕が遺憾なく発揮されています。荒唐無稽に思える設定に説得力を持たせているのは、背景に現実世界の延長線を感じさせる工夫があるからでしょう。例えば「10代で銃を持ち戦場に駆り出される若者は世界に大勢いる」という一節にはハッとさせられました。確かに日本では非現実的でも、紛争地域では少年兵の問題が現実にある…。こうしたリアルな要素がフィクションに溶け込むことで、物語の重みと説得力が格段に増しているのです。さらに、読者レビューにも「荒唐無稽なようで、なくもないかな…と思わせる、そんな時代を今生きてるんだな〜」という声があり、現実社会と地続きの恐怖として物語を受け止めている人もいました。エンタメ性と社会性の融合、これこそが『高校事変』の人気の秘密であり、読後に色々語りたくなる所以ではないでしょうか。

5. 他作品との比較 – 学園を舞台にしたバイオレンスやサスペンスという点で、本作はいくつかの有名作品とも比較できます。先に挙げた映画『告白』やアニメ『PSYCHO-PASS』以外にも、「学校×サバイバル」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは高見広春氏の『バトル・ロワイアル』でしょう。『バトル・ロワイアル』は中学生同士が殺し合いを強いられる物語でしたが、教師を含む大人がゲームを主催する点でやはり大人 vs 子どもの構図がありました。本作『高校事変』でも、武装集団の背後にいる黒幕は大人の権力者です。つまり若者が生き残るために戦う構図は同じですが、大きな違いはヒロインの能動性です。『バトル・ロワイアル』の子どもたちが「やらされる側」なのに対し、結衣は自らの意思で銃を手に取り戦います。この能動的な女子高生ヒロイン像は、和田慎二氏の漫画『スケバン刑事』の系譜にも連なります(ちなみに『高校事変』は2020年から漫画版も連載され、「平成令和版スケバン刑事」との声もありました)。ただし結衣は校内の不良を倒す程度では済まず、日本国家を揺るがすような巨悪に挑む点でスケールが段違いです。アメリカ映画『若き勇者たち(Red Dawn)』では、田舎町に侵攻した敵軍に高校生たちがゲリラ抵抗するストーリーが描かれましたが、結衣の戦いもまさしく“日本版Red Dawn”と言えるかもしれません。こうして比べてみると、『高校事変』は様々な過去作品のエッセンスを継承しつつも、女子高生ヒロイン vs 国家規模の陰謀というユニークな構図を打ち出した点で独創的です。過去の名作が好きな人ほど、本作の新鮮さとアツさに痺れるのではないでしょうか。

読者の反応

発売当初から現在に至るまで、『高校事変』第1巻にはSNS上で実に様々な感想が寄せられています。その中からポジティブな反応ネガティブな反応をそれぞれ5つずつピックアップしてみましょう。生の読者の声から、本作への評価傾向が見えてきます。

ポジティブな反応(称賛) 🟢

  • 「なかなかのバイオレンス!だが、それがいい!」 – 「#読了。久々の読書記録。なかなかのバイオレンス!だが、それがいい!物語の展開もベタやけど、男の子には刺さる笑」という男性読者の興奮気味のツイートがありました。激しいバイオレンス描写も「それがいい」と楽しんでおり、王道展開と過激さが“刺さる”読者層がいることを物語っています。この方はシリーズがあと○○巻もあると知って喜んでおり、中毒性の高さがうかがえます。
  • 「映画を観てるみたいなスピード感」 – 「高校に侵入してきた謎の武装勢力に対して戦う女子高生。スピード感があって映画を観てるよう。。」との感想もありました。映像を見ているかのような臨場感とテンポの良さに言及する声は特に多く、読み始めたら一気読みしてしまったという報告がSNS上に相次ぎました。「映像化してほしい!」という声も散見されますが、「実写化は倫理的に無理だろう」とのコメントもあり、嬉しい悲鳴と言えそうです。
  • 「主人公が魅力的で惚れた」 – 「読むうちに主人公に魅了された」「優莉結衣が大好きになった」という投稿も目立ちました。超人的だけどギリギリ鼻につかないキャラクター描写が上手いという評価で、「人間離れしているが人間味もある主人公でした。ダークヒーローな感じ。でも、好きです。」といった声もあります。結衣のダークでクールな側面と、仲間思いな面とのギャップに心掴まれる読者が多いようです。
  • 「武器や戦術の描写がマニアックで凄い」武器マニアからの支持も熱烈です。ある読者は「戦闘描写や武器の知識などはさすがだなあと感じました。武器マニアな人にとっては、作品に出てくる武器とその使い方を語り合うだけでいい酒の肴になりそう」とコメント。松岡圭祐さんの緻密なリサーチに裏打ちされた描写が高く評価されています。現代兵器から即席爆弾の作り方まで細かく描かれるため、「読んでいて勉強になる」「著者の博識ぶりに驚かされる」といった反応もありました。
  • 「社会への風刺が効いている」 – 単なるアクションに留まらず「現実社会へのアンチテーゼもちらほら」と指摘する声も。たとえば「自己保身の政治家とか現実にいそうで怖い」といったツイートや、「学校が血の海になるなんて荒唐無稽…なくもないかな、と思わせるのがすごい」という感想が挙がっています。こうした社会派エンタメ的な側面は知的な読者層にも刺さっており、「読み応えがあった」「考えさせられた」という評価につながっています。

ネガティブな反応(批評) 🔴

  • 「グロテスクでキツい…」 – ネガティブ意見でまず目立つのは「流血描写が酷くて辛い」というものです。「クラスメイトが次々死ぬ描写がグロすぎて読めなかった」というツイートや、「かなりエグい表現となってますので、不快に感じる読者もいると思いますね〜」といったブログでの指摘もありました。バイオレンス描写の生々しさに耐えられず途中で挫折したという声もあり、残酷描写の賛否は本作の賛否を分ける大きなポイントです。
  • 「現実味がなさすぎる」 – 「高校が武装集団に乗っ取られるなんて非現実的」「設定がぶっ飛びすぎてついていけない」といった意見も散見されます。ある読者は「設定がリアルからかけ離れてるから他のシリーズを読むか悩む…」とコメントしており、エンタメと割り切れない人には荒唐無稽に映ってしまうようです。ただし、そう感じた人でも「…それでも面白かった」と続けるケースもあり、非現実さを補って余りある面白さは認めている様子でした。
  • 「主人公が無双すぎてご都合主義?」 – 結衣の無敵ぶりに関しては「主人公がスーパー女子高生なのにギリギリ鼻につかない描写なのがうまい。ただ、無双すぎるは無双すぎる」との指摘がありました。超人的な活躍に爽快感を覚える半面、「都合良く行き過ぎ」「ご都合主義では?」という批判もゼロではありません。敵の方がプロのはずなのに高校生にやられ過ぎでは?というリアリティラインを問う声ですが、「過去の映画やなろう系の皮肉を入れつつリアリティ追求してるから納得した」とフォローする意見もあり、評価は分かれるところです。
  • 「登場人物が多くて混乱する」 – 前述しましたが、主要キャラ以外にも一度きりのモブキャラや固有名詞が多いため、「登場人物が多いのでかなりページを見返す必要がある」という声も。特に序盤で一気に多数の生徒や教師が出てくる割にすぐ退場してしまうため、顔と名前を覚える前にいなくなって混乱した、という読者もいました。ただこれについては、物語の性質上「どんどん退場するホラー映画のようなものだから気にしない」という人も多く、スプラッタ映画的なノリとして受け入れてしまえば問題ない、とのことでした。
  • 「シリーズが長すぎて追うのが大変」 – 第1巻そのものの感想ではありませんが、「面白いけど巻数多すぎ」「ハマったけど最新巻まで20巻以上あって挫折」という声も上がっています。実際、あるユーザーは「第6巻の途中で挫折しました。最初の衝撃は良かったけど3巻くらいでもうお腹いっぱい」と正直な感想を述べていました。シリーズものゆえの宿命ですが、第1巻のインパクトが強烈なだけに、以降のマンネリや冗長さを心配する声もあるようです。ただし最新巻まで読んだファンからは「毎回変わらず面白い。むしろ巻を追うごとに熱い」という意見も多数あり、長期シリーズへの評価も人それぞれといったところです。

以上のように、『高校事変』第1巻への反応は賛否両論あるものの、総じてポジティブな声が多い印象です。特に「面白かった!」という興奮混じりの感想がSNSでは多数派で、ネガティブ意見は「グロい」「荒唐無稽」といった部分に集中しているように見受けられます。グロ描写や非現実設定もエンタメの範疇として楽しめるかどうかで評価が分かれますが、それを踏まえても「読み応えがある」「続きが気になる」との声が多い点で、本作が読者を惹きつける力は本物と言えるでしょう。

次回への期待

第1巻のラストは一応の区切りを迎えつつも、物語全体としてはこれから本番といった雰囲気で幕を閉じます。読了後、すぐにでも第2巻を手に取りたくなる仕掛けが随所にありました。では、第2巻以降は一体どのような展開が待っているのでしょうか?ここではネタバレしない範囲で、次巻への期待や伏線、注目ポイントを探ってみます。

まず第2巻『高校事変II』ですが、物語の舞台がガラリと変わります。第1巻の「武蔵小杉高校事変」から2か月後、結衣は新たな地で高校生活を送っていました。しかしそこで彼女の身近に新たな事件が発生します。結衣と同じ養護施設で育った少女・奈々未が行方不明になり、さらには全国的にも多数の女子高生失踪事件が起きていることが判明するのです。結衣は奈々未の妹に懇願され、その失踪事件の調査に乗り出すことになります。第1巻が学園サバイバル・アクションだったのに対し、第2巻では一転して闇の少女誘拐ビジネスに迫る社会派ミステリーの色合いが強まります。キーワードは「JKビジネス」「特権階級の闇」などで、裏社会や権力者の腐敗が絡む一筋縄ではいかない事件になりそうです。果たして結衣は親しい友人を救い出せるのか、そして黒幕の正体とは? 第1巻以上に現代日本の病理に踏み込んだテーマが扱われるとあって、今からハラハラが止まりません。

さらにシリーズ全体の伏線として、第1巻で明らかになった政府内の陰謀はおそらくまだ序章に過ぎないでしょう。黒幕の政治家(柚木国務大臣)が逮捕されたとしても、その背後にいる更なる巨悪の存在が示唆されています。実際、シリーズが進むにつれて日本全土を巻き込むテロとの戦いへとスケールアップしていくようで、第12巻までが「第一部完」、第13巻から新章スタートという構成になっています。第1巻時点では結衣は孤独な一匹狼でしたが、巻を追うごとに心強い仲間が増えていくことも示唆されています。後の巻では彼女の妹たち(優莉四姉妹)が登場し、ともに巨悪に立ち向かう展開になるとか…? 家族というテーマが今後どう物語に絡んでくるのかも非常に楽しみです。

また、第1巻では語られなかった結衣の心情や過去についても、今後掘り下げられていくでしょう。父・匡太との思い出、テロ事件当時9歳だった結衣が何を見て何を感じたのか、といった部分はまだ謎に包まれています。それらが明かされるにつれ、読者はさらに結衣という人物の深みに触れることになるはずです。「最凶のテロリストの娘」という十字架を背負った彼女が、なぜここまで命懸けで人助けをするのか——その根底にあるもの(罪の意識?贖罪?それとも使命感?)が判明すれば、物語はまた違った様相を帯びるかもしれません。

そして何と言っても、シリーズ通してのラスボス的存在が誰になるのかも見どころです。第1巻ではある人物が黒幕でしたが、シリーズが長く続く以上、さらに大きな敵が潜んでいるはずです。例えば結衣の父・匡太のテロ事件にもまだ明かされていない全貌があるのでは…と勘ぐってしまいます。匡太は既に死刑となっていますが、その遺した“志”を継ぐ者がいたり、匡太の過去に国家を揺るがす秘密が隠されていたりする可能性も考えられます。実際、シリーズ最新巻(第22巻)では父・匡太の魔の手が優莉姉妹に迫るとのあらすじが出ており、まだまだ波乱が続きそうです。

個人的な展開予想としては、結衣がこの先様々な高校に転校・潜入しながら事件を解決していく「1巻1校スタイル」を取りつつ、背後では政府の秘密組織や国際テロネットワークとの戦いがエスカレートしていくのではないかと睨んでいます。途中からは結衣一人ではなく頼もしい仲間(妹や同志)とチームを組んで戦う展開になるかもしれません。シリーズタイトルが『高校事変XX』とナンバリングされていることから、“事変”の連鎖がどこまで続くのかワクワクしますね。読者としては、結衣たちが最後に平穏な学園生活を取り戻せる日が来ることを願いつつ、もうしばらくはこのスリリングな非日常に付き合いたい気持ちです。

関連グッズ紹介

『高校事変』の世界にハマったら、ぜひチェックしておきたい関連アイテムがいくつかあります。以下に代表的なものをご紹介します。

  • シリーズ小説(既刊) – まずは何と言っても小説本編の続刊です。第1巻に続き、現在第22巻まで角川文庫より刊行中(2025年5月現在)。第12巻までが「第一部完」、第13巻から新章突入となっており、巻数は多いですがエピソードごとに区切りがあるので安心して読み進められます。また、本編とは別にスピンオフ小説も刊行されています。例えば『優莉結衣 高校事変 劃篇』『優莉凜香 高校事変 劃篇』といった番外編があり、それぞれ主人公・結衣自身の視点で描かれる外伝や、結衣の妹・凜香を主人公に据えた物語など、シリーズ世界を補完する内容になっています。本編を読み終えた後はこちらも是非手に取ってみてください。
  • 文庫版・電子書籍 – 紙の文庫本はカバー写真にも凝っており、「表紙の女子高生モデルが毎回謎めいていて雰囲気満点」と評判です。シリーズをずらっと本棚に並べれば背表紙も統一感がありコレクション欲をそそります。また、電子書籍版もKADOKAWAより配信されており、スマホやタブレットで気軽に読めます。紙書籍発売と同時に電子版も出るので、続きが気になる方は深夜にポチって即読了…なんてことも可能です。
  • コミカライズ版 – 『高校事変』はコミック版も存在します。作画はオオイシヒロト先生が担当し、『ヤングエース』誌上で2020年2月号から2023年1月号まで連載されました(単行本は角川コミックス・エースより現在第2巻まで刊行)。コミカライズ版では結衣の戦闘シーンがダイナミックな絵で楽しめるほか、原作小説からの変更点も一部あります。小説では想像に任されていた場面が漫画で補完されていたり、逆に漫画独自の演出が加わっていたりと、原作ファンでも新鮮な気持ちで読める内容です。また、無料試し読みがComic Walker等で公開されているので、気になる方はまず試し読みから入ってみるのも良いでしょう。
  • オーディオブック – 2023年現在、公式のオーディオブック化はされていないようですが、近年のライト文芸人気からして今後Audible等で配信される可能性もあります。松岡圭祐さんの他作品(例えば湊かなえ作品などもAudible配信されている)を考えると、需要は十分あるはずです。ぜひ音声で結衣の物語を追体験したいものですね。今後の展開に期待しましょう。
  • 映像化企画 – 実は映画会社が映像化を企画中との報道も一部でありました。ただし公式発表はなく詳細不明です。ファンの間では「映像化してほしいけどR15でも無理では…」という声もある通り、内容が過激なため実写化はハードルが高そうです。一方でアニメ化や海外ドラマ化を望む声も根強く、「ハリウッドで『ダイ・ハードin学校』として作ったらウケそう」との意見も。関連グッズとは少し違いますが、今後メディアミックス展開があればぜひ注目したいポイントです。
  • その他グッズ – 現時点で公式キャラクターグッズ等は出ていませんが、ファン有志が作成したイメージイラストやグッズがネット上で見られます。例えば結衣の愛用する拳銃のモデルガンや、劇中に出てくる武蔵小杉高校の校章マーク入りTシャツなど、ユニークな非公式グッズも存在します。公式からシリーズ完結記念グッズなど発売されたら面白そうですね(防弾チョッキ風リュックとか…?)。将来的な展開に期待しましょう。

まとめ

以上、『高校事変』第1巻のレビュー・考察をお届けしました。少女×銃×学園サバイバルという強烈なコンセプトで始まる本作は、その刺激的な展開で読者の心拍数を上げつつ、同時に深いテーマも投げかけてくる珠玉のエンターテインメントでした。筆者個人の評価としては、ストーリーの面白さ・キャラクターの魅力・考察の余地いずれも高水準で、繰り返しになりますが★4.5/5を付けたい完成度です。特に「こんな小説は読んだことがない!」という衝撃度において第1巻は群を抜いており、これがシリーズの原点と思うと胸が高鳴ります。

今後の展開についても、伏線が多く張られているだけに期待は膨らむばかりです。優莉結衣というキャラクターが最終的にどんな答えを見出すのか、そして日本という国家の「闇」を彼女は暴ききることができるのか、ぜひ最後まで見届けたいですね。幸い刊行ペースも速く、追いかける楽しみが当分続きそうです。

最後に、本記事を読んで『高校事変』に興味を持たれた方は、ぜひ第1巻を手に取ってみてください。息もつかせぬエンタメ小説の醍醐味を味わえること間違いなしです。そして既に読了済みの方は、あなたはこの物語をどう感じましたか? 結衣の戦いぶりや物語のテーマについて、ぜひ皆さんのご意見・感想も聞かせてください。「皆さんはどう感じましたか?」是非コメントやレビューで教えていただければ幸いです。共に『高校事変』の世界を語り合いましょう!

この記事が、次に読む一冊を探しているあなたの参考になれば幸いです。ありがとうございました。

  • この記事を書いた人
  • 最新記事

morishy

職業:外資系ITサービス企業での技術職 趣味:読書、アニメ/ドラマ/映画鑑賞、スポーツ観戦、ゲーム、プラモなど 自己紹介: IT企業で技術職で働いており、新しいものについて比較的興味を持ちやすい体質です。最近は読書やアニメ、ドラマを中心とした動画鑑賞にどっぷりはまっており、作品の良いところを中心に紹介したいと考えて立ち上げました。 好き嫌いがない性格なので、結構幅広く作品を鑑賞しているので、皆さんの今後の読書や動画鑑賞に活かしてもらえるような情報提供ができれば幸いです。

-小説
-,