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(あらすじ・感想)東野圭吾さんの『卒業』(1986年)をヨム!加賀恭一郎、はじまりの事件と静かな衝撃

東野圭吾さんの長編ミステリー『卒業』は、名探偵・加賀恭一郎シリーズの第1作目にあたります。加賀恭一郎がまだ刑事になる前の大学生として初めて事件に挑む物語であり、シリーズのはじまりにふさわしく静かながら心に残る衝撃を与えてくれる一冊です。初出は1986年(単行本)で、当初は副題に「雪月花殺人ゲーム」とついていました。2009年には文庫新装版が刊行され、2013年には累計売上が100万部を突破するなど今なお多くの読者に読まれています。物語の舞台は卒業間近の大学キャンパス。甘酸っぱい青春の空気と、本格ミステリーの謎解き要素が見事に融合した本作は、読後にじんわりとした余韻を残す「静かな衝撃」のミステリーと言えるでしょう。この記事ではネタバレを極力避けつつ、『卒業』の魅力を多角的にレビューしていきます。

著者紹介:東野圭吾と本作の位置付け

東野圭吾(ひがしの けいご)は日本を代表するベストセラー作家で、その作品はミステリーを軸にしながらも幅広いジャンルに渡り国内外で高い評価を受けています。1958年大阪府生まれ。大阪府立大学工学部を卒業後、エンジニアとして就職するも執筆活動を続け、1985年に『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受賞しデビューしました。以降、『白夜行』『秘密』『容疑者Xの献身』『流星の絆』『マスカレード・ホテル』など数多くの話題作を発表し、本格ミステリから社会派サスペンス、ユーモア小説まで多彩なジャンルを執筆しています。特に推理小説においてはトリックの巧妙さと人間ドラマの融合、読者の意表を突くどんでん返しに定評があります。

『卒業』は東野圭吾さんのデビュー2作目にあたる初期長編であり、ここで初めて加賀恭一郎というキャラクターが登場しました。初期の東野作品は純粋にミステリーに真正面から取り組んだ正統派の作風が多く、本作もまさにそうした本格志向の一例です。後に東野さんは直木賞受賞作『容疑者Xの献身』のように社会性や人間の情愛に踏み込んだ作品も手掛けますが、『卒業』執筆当時はまだ新人作家らしい瑞々しい感性で「謎解き」という王道に挑戦しており、その点でファンからは「初期ならではの新鮮さが感じられる」作品と評価されています。シリーズの第一歩として、加賀恭一郎の原点と東野圭吾さんの原点、両方の魅力を味わえる位置付けの作品と言えるでしょう。

登場人物紹介:加賀恭一郎と個性豊かな仲間たち

加賀 恭一郎(かが きょういちろう) – 本作の主人公。県立R高校からの仲間内ではリーダー格の存在で、物腰は穏やかですが芯が強く洞察力に優れています。国立T大学社会学部4年生で、在学中は剣道一筋に励み学生選手権で二連覇を果たした実力の持ち主。現在は剣道部のOBとして後輩の指導をしています。茶道にも関心があり、かつて茶道部にも所属していたため、毎年恒例の「雪月花之式」という変わった形式の茶会にも精通しています。父親が警察官という家庭に育ち、自身も進路として警察官の道と迷いましたが、物語開始時点では「教師になる」ことを目指しています。冷静沈着で優しい人柄は周囲からの信頼も厚く、学生でありながら友人たちの事件捜査の中心的役割を担います。将来刑事となる彼の原点ともいえる若き日の加賀は、本作でどのように謎に向き合うのか注目ポイントです。

相原 沙都子(あいはら さとこ) – 加賀の同級生で、文学部国文科の女子学生。高校時代からの剣道仲間であり、加賀が密かに結婚を考えるほど想いを寄せる存在です。芯の通った性格で、自分の意思で東京の出版社への就職を決めていますが、実家を離れることに父親は反対しているなど家族との確執も抱えています。剣道部で培った集中力と茶道部での経験から、冷静さと思いやりを兼ね備えた女性です。友情にも厚く、最初の事件では亡くなった祥子の無念を晴らすために加賀とともに奔走します。その凛とした強さと、時折見せる女性らしい繊細さが魅力のキャラクターです。

牧村 祥子(まきむら しょうこ) – 文学部英米科4年生。加賀たち高校時代からの仲良しグループの一人で、藤堂正彦の恋人でもあります。成績優秀で控えめなおとなしい性格ですが、周囲から愛される存在であだ名は「迷い娘」。実は旅行好きで、卒業後は旅行会社に就職が決まっているしっかり者です。物語冒頭、女子寮「白鷺荘」の自室で手首を切った状態で亡くなっているのが発見され、警察から自殺とみなされます。祥子の死が全ての発端となり、彼女の日記が謎を解く重要な手がかりとして登場します。その人柄ゆえに彼女の死は仲間たちに大きな影を落とし、物語全体に哀愁を漂わせる存在となっています。

藤堂 正彦(とうどう まさひこ) – 理工学部金属工学科の4年生で、祥子の恋人。がっちりした体格で落ち着いた雰囲気の青年です。高校時代は剣道部主将という熱血的な一面もありましたが、大学では研究肌にシフトし、卒業後はそのまま大学院進学を予定するなど冷静で理論派のキャラクターです。祥子に大学入学直後に告白して交際を始めた経緯があり、祥子の死に誰よりショックを受けつつも表面上は平静を装います。技術者志望らしい分析的思考で事件にも向き合いますが、彼自身の内面には複雑な感情も秘められており、物語後半で鍵を握る人物の一人です。

金井 波香(かない なみか) – 文学部英米科4年生で、祥子・沙都子とは茶道部や剣道部を通じての友人。強気で行動的な女性で、中学時代から女子剣道の頂点を目指し、大学でも学生剣道個人戦で準優勝するほどの腕前を誇ります。一方で後輩の指導を極端に嫌がるなどプライドが高く、部内では孤高の存在です。ヘビースモーカーでお酒も強く、黒髪の美しい外見とは裏腹に男勝りな気性の持ち主。実家は工務店を営んでおり、幼い頃からスパルタ教育で鍛えられた過去を持ちます。波香も祥子の死に大きく心を揺さぶられる一人ですが、その言動にはどこか影があり…。物語中盤、彼女にも思いもよらぬ運命が訪れることに…。波香のキャラクターは、青春群像劇にスリルとスパイスを加える存在として描かれています。

その他の仲間たち – 上記以外にも、グループの一人である杉田 華江(すぎた はなえ)や、加賀の警察道場での稽古を仲介した三島 亮子(みしま りょうこ)など、物語には多彩な脇役が登場します。華江は沙都子とは高校からの親友で、おっとりした雰囲気ながら友情に厚い人物。亮子は学生ながら警察官とも交流があり、加賀に警察剣道の場を提供する頼もしい存在です。それぞれのキャラクターが青春の日々の中で複雑に絡み合い、事件の背景に人間関係のもつれや想いのすれ違いを浮かび上がらせていきます。また、茶道部の恩師である南沢 雅子(みなみさわ まさこ)も重要人物です。毎年OBたちを自宅に招いて茶会「雪月花之式」を催す南沢先生は、上品で包容力のある大人の女性。彼女の存在が物語に安らぎと緊張感の両方を与え、事件の舞台となる茶会シーンでは重要な役割を果たします。

あらすじ

物語は秋も深まる頃、就職活動や卒論準備に忙しいT大学のキャンパスで幕を開けます。ある日、文学部4年の牧村祥子が女子寮「白鷺荘」の自室で変死体となって発見されました。左手首を切り洗面器に手を浸した状態という状況から警察は自殺と断定しかけますが、彼女の交友関係者から出てきた証言にはいくつか食い違いや不審な点がありました。やがて捜査は自殺・他殺の両面で進められることになります。祥子と親しかった加賀恭一郎を含む7人の大学生仲間たちも動揺を隠せません。突然の友の死の真相を確かめたい一心で、彼らは祥子が遺した日記帳を手掛かりに独自に謎を追い始めました。

やがて年の瀬が迫り、グループの面々は高校時代からの恩師である南沢雅子先生の家に集まります。毎年恒例となっていた茶会「雪月花之式」を今年も催し、祥子を偲んで報告を兼ねた集まりを持つことにしたのです。しかし茶会の最中、新たな悲劇が発生してしまいます。なんと、仲間の一人である金井波香がその場で急死してしまったのです。密室状態の茶室で起きた不可解な連続死に、一同は騒然となります。二つの死は自殺か他殺か? もし殺人だとすれば犯人は誰なのか? 仲間内に疑心暗鬼が広がる中、加賀恭一郎は冷静に事件の関連性を探り始めます。

加賀は警察の捜査を横目に、亡くなった祥子の日記や茶会の進行手順、そして仲間たちそれぞれの言動を丹念に振り返ります。やがて浮かび上がるのは、学生生活の裏側に潜んでいた複雑な人間関係と、卒業を間近に控えた若者たちの将来への不安や焦燥感でした。事件当夜に行われた「雪月花之式」という茶会の特殊なルールにも重大なヒントが隠されており、加賀は茶道の作法やトリックにも頭を巡らせます。物語は終盤、卒業式が近づく冬のキャンパスを舞台にクライマックスを迎えます。果たして祥子と波香、二人の死に秘められた真相とは何だったのか? そして加賀恭一郎が最後に下した決断とは——?結末は本書を実際に読んで確かめてみてください。静かに胸を打つ余韻とともに、思わず人に語りたくなる巧みな結末が待っています。(※犯人や真相については本記事では伏せておりますのでご安心ください。)

感想:青春のほろ苦さと謎解きの妙を味わって

『卒業』を読み終えてまず感じたのは、青春小説としてのほろ苦い余韻と、本格ミステリーとしての知的な満足感が同時に味わえる作品だということです。大学4年生という人生の門出に立つ若者たちの心理描写が丁寧で、将来への不安や友情の微妙な変化といった青春の機微が伝わってきました。犯人探しのミステリーでありながら、読み進めるうちに「もし自分が彼らの立場だったら?」と感情移入してしまい、ラストではただ謎が解けたという爽快感だけでなく、どこか切ない気持ちが胸に残りました。東野圭吾さんはトリック作りが巧みな一方で、登場人物の心情描写にも長けていると改めて実感させられます。

本作で特に印象に残ったのは、事件の鍵となる茶会「雪月花之式」のシーンです。茶道の稽古経験がある読者ならニヤリとするような細かな所作の描写や、初心者には少し難解に感じる独特のルール説明など、ミステリーのトリックと日本文化が融合したユニークな場面でした。正直言って私自身、最初は雪月花之式のルールを完全には理解できず「少し複雑かな?」と感じた部分もありました。しかし物語が進むにつれ、「あの時のあの動きにはそういう意味があったのか!」と伏線に気付かされる展開には思わず膝を打ちました。凝った設定も終盤できちんと回収されるので、読み終えてみれば難解さも含めて本格ミステリーらしい醍醐味だったと思えます。

キャラクター面では、若き日の加賀恭一郎の魅力にあらためて惹かれました。後年のシリーズ作品で見せる冷静沈着な刑事・加賀とは少し異なり、学生の加賀は等身大で情に厚く、友のために奔走する熱い一面があります。とはいえ随所に光る洞察力やリーダーシップはさすがで、「この頃から既に“加賀刑事”の片鱗があったのだなあ」と感心させられます。仲間想いでまっすぐな加賀の人柄が物語全体のトーンを優しく包み込んでおり、読後には彼のファンになったという声もうなずけます。犯人捜しの過程では、加賀自身も葛藤や悩みを抱えますが、それを乗り越えて真実に辿り着く姿は爽やかで、シリーズ第一作として主人公の成長物語としても楽しめました。

全体として、『卒業』は「青春ミステリー」という言葉がぴったりくる作品でした。推理小説としてのロジックの妙味を味わえるのはもちろん、青春群像劇として登場人物たちの心の動きにもグッと引き込まれます。物語が進むにつれて友情の裏に潜む嫉妬や孤独、将来への焦りといった若者特有の危うさがじわじわと浮かび上がってきて、最後の真相が明かされる頃にはタイトル『卒業』に込められた複数の意味にハッとさせられました。「卒業」は単に大学卒業を指すだけでなく、登場人物それぞれの青春からの卒業、友情からの卒業、あるいは罪や悲しみからの卒業でもあったのかもしれません。読み終わった後、静かに心を揺さぶられるような余韻が残るのは、本作が単なる謎解き以上に人間ドラマとして深みがある証拠でしょう。

考察・解説:伏線とテーマ、加賀恭一郎の人物像を深掘り

本格ミステリーとしての『卒業』を分析すると、その伏線の張り巡らせ方にまず感嘆させられます。東野圭吾さんの作品は「最後のどんでん返し」の鮮やかさが語られることが多いですが、本作でも序盤からさりげなく配置されたヒントが終盤で一気に回収されていく展開は見事でした。「東野圭吾にハズレなし。この本も最高傑作。さまざまな伏線をしっかり回収してくれるところがさすがだ」といった感想もあるほどで、読者を裏切らない緻密なプロット運びが高く評価されています。中でも、茶会の場面に仕掛けられたトリックや密室の謎は、一度結末を知って改めて読み返すと「なるほど、こんなところに!」と新たな発見がある作り込みでした。謎解き小説好きには二度おいしい構成と言えるでしょう。

一方で、本作は単なる推理ゲームに終わらずテーマ性もしっかりと備えています。先にも述べたように、「卒業」というタイトルには多面的な意味が込められており、物語を通して浮かび上がるのは青春期の終わりに直面した若者たちの葛藤です。犯人の動機やキャラクターたちの言動には「若さゆえ」の未熟さや危うさが色濃く反映されており、「青春なんて皆こんなものじゃないだろうか」と共感する読者もいるでしょう。膨れ上がった自意識、不安定な将来への不安、些細な一言で喜怒哀楽が激しく揺れ動く——誰しも覚えのある痛々しい青春の一コマが、もしも殺人という極限状況と結びついてしまったら…本作はまさにそんな「青春ミステリー特有のアブナイ空気感」を巧みに描いた作品だと評価されています。東野圭吾さんの作品全般に流れるテーマとして「人間の業」や「家族・友情の絆」が挙げられますが、本作でもその萌芽が感じられます。

加賀恭一郎というキャラクターの考察も欠かせません。東野さん自身は「加賀は自分がしっかりキャラクターを持っている人物で、自分がやったことのない実験作に登場させることが多い、頼りになるキャラクターだ」と語っています。確かに加賀刑事は後のシリーズ作『悪意』『どちらかが彼女を殺した』『赤い指』『新参者』などで様々な趣向の作品に登場し、それぞれ作品ごとに異なる顔を見せてきました。本作『卒業』における加賀は“加賀恭一郎シリーズ”の原点であり、まだ刑事になる前の学生という異色の設定です。この設定自体が東野さんにとってある種の実験だったとも考えられます。結果的に加賀はシリーズ第2作『眠りの森』で警視庁捜査一課の刑事として再登場しますが、これは作者のちょっとした遊び心だったとのことで、デビュー当初から東野さんが加賀というキャラを自由に動かしながら物語作りを楽しんでいたことが伺えます。そうした作者とキャラクターの関係性を知ると、『卒業』における加賀の言動の端々にも作者のメッセージや狙いが感じられて興味深いです。

また、シリーズを通して描かれる親子関係のテーマにも注目したいところです。加賀恭一郎は警察官の父を持ちながら、自身は教師の道を選ぼうとして父とすれ違いの生活を送っています。本作ではその設定が背景にとどまりますが、後のシリーズ(特に『赤い指』や最終作『祈りの幕が下りる時』)で大きくスポットが当たる親子の絆・断絶というテーマの伏線とも読めます。対比的に、沙都子と父親の関係(娘の意思に反対する父とそれに反発する娘)も描かれており、「親からの卒業」というもう一つの意味も物語に含まれていたのではないか、と解釈することもできるでしょう。東野圭吾さんはしばしば家族愛や親子の問題をテーマに据えますが、本作はその初期の試みとして控えめながらもしっかり組み込まれている点が興味深いです。

最後に、本作を他の東野作品と比較すると、トリックの精巧さと物語の切なさという二面性が『卒業』の特徴として浮かび上がります。例えば同じ加賀恭一郎シリーズでも、直木賞を受賞した『容疑者Xの献身』(ガリレオシリーズ)や社会派色の強い『手紙』などと比べると、『卒業』は良い意味で素朴で青臭い青春群像劇の趣きがあります。一方で本格ミステリーとしての大胆な仕掛け(密室トリックの真相など)は、「後の某シリーズを彷彿とさせるような大胆なもので非常に面白かった」という声もあり、東野作品の中でも古典的な謎解きの面白さが際立っています。読者によっては「密室トリックは期待はずれだったが、それを吹き飛ばすほど茶道ゲームのトリックが良かった」という感想もあり、評価が分かれる部分もありますが、そうした議論も含めてファンに長く愛されている作品だと言えるでしょう。

読者の反応:SNS・レビューサイトの声から

発売から年月を経た作品ではありますが、『卒業』には現在も多くの読者レビューが寄せられています。SNSや書評サイトの反応を探ってみると、おおむね高評価が目立つものの、中には辛口な意見も見受けられました。以下にポジティブな反応ネガティブな反応をそれぞれ5件ずつ紹介し、その傾向をまとめます。

ポジティブな反応(称賛) 🟢

  1. 「一気読み必至!」 – 「通勤電車で読むために買ったが、東野圭吾の本は読み始めるとあっという間に時間が過ぎてしまう。中々面白い♪」といった声があり、多くの読者が物語に引き込まれて一気読みしてしまったようです。「読み応えありです!おすすめ」と満点評価するレビューも見られ、飽きさせない展開に好評が集まっています。
  2. 「巧妙な茶道トリックに感心」 – 「雪月花之式という茶会のトリックは難しくて茶道は奥が深いと思った。こんな要素をミステリーの題材に持ってくる作者の博識さに感心しました」と、茶道を取り入れたユニークな謎解き設定が称賛されています。日本文化を絡めた本格ミステリーのアイデアに「造詣の深さがすごい」という評価もあり、東野圭吾さんならではの着眼点が高く評価されています。
  3. 「青春の描写に共感」 – 「昭和のスモーキーな学生生活の模様が垣間見えて面白かった。東野圭吾さんはトリックもすごいけど、やっぱり人間関係や心情表現を文章に落とし込むのが上手」との感想があるように、本作の舞台である1980年代の学生たちの青春群像劇としての面白さに触れる読者も多いです。当時の雰囲気や若者たちのリアルな会話・心理描写に「懐かしさを感じた」「自分の学生時代を思い出した」という声もあり、単なる推理小説以上に青春ドラマとして楽しんだ読者もいました。
  4. 「加賀恭一郎の原点が新鮮」 – 「加賀シリーズの始まりと聞いて読んでみた。まだ警察官ではない若き日の加賀君が印象的でした」というシリーズファンからの声もあります。後の作品で加賀刑事を知った読者が本作を逆読みして、「大学生の加賀が新鮮」「加賀の考え方の根本が分かって面白い」と評価するケースです。ドラマや他の小説ですでに加賀恭一郎を知っている人ほど、本作で描かれる青年・加賀の姿に親しみを感じ、高評価を与えている傾向が見られました。
  5. 「ラストの余韻と衝撃」 – ネタバレは避けますが、「最後の展開にはまさかそんなことになるとは思わず、しばらく後味の苦い感じが続いた」といったコメントや、「終盤の畳みかけ方はさすが後の大人気作家という感じだった」という声もありました。クライマックスの盛り上がりと読後の余韻については概ね肯定的な意見が多く、「静かな衝撃」というキャッチコピー通り、派手さはないが心に染みる結末だったと評価されています。

ネガティブな反応(批評) 🔴

  1. 「犯人の動機に無理がある?」 – 「面白く読めた。ただ犯人の動機は少々無理があるのではと感じるところもあります」という声が見られました。真相の動機に納得できなかった、やや動機づけが弱いと感じた読者も一部にいるようです。特にトリック重視の本格推理である分、動機の部分で感情移入しきれなかったという指摘でしょう。
  2. 「雪月花の式が複雑すぎる」 – 「副題にもなっている『雪月花ゲーム』は図解があるとはいえ少々複雑で、読者が理解しきる前にどんどん先に進んでしまったように思う。作品の肝になる部分なので、もう少し分かりやすく書いてほしかった」との意見もありました。茶道の専門的な手順やルール説明が難解で、一度読んだだけでは把握しづらいというものです。本格ミステリーらしい凝った設定ゆえの弊害とも言えますが、人によっては「理解が難しい作品」と感じるポイントになったようです。
  3. 「密室トリックが期待はずれ」 – 本作には一応「密室殺人」の要素も含まれますが、「密室トリックは確かに期待はずれだった」という辛口評価も散見されました。ただし続けて「そんなのはどうでもよくなるくらい、茶道ゲームのトリックが良かった」と補足されているケースもあり、密室の仕掛け自体よりも他の謎解き部分のほうが印象に残ったというニュアンスです。いずれにせよ、本格ミステリファンの中には密室トリックの斬新さを期待して肩透かしを食らったと感じた人もいるようです。
  4. 「時代設定の古さ・違和感」 – 「初版1989年?! 昭和を感じる生活模様」「若者たちのセリフや仕草が古臭く、年齢の割に幼稚すぎる考えがどうも…」といった指摘もありました。執筆時期が今から見れば数十年前になるため、登場人物の言動や雰囲気に時代ギャップを感じたというものです。当時としてはリアルでも現代の感覚では幼く見えるキャラクター造形や、日記・手紙といった今ではレトロなアイテムが重要アイテムになる展開に、若い読者ほど違和感を覚えたのかもしれません。「加賀恭一郎は大学生のはずなのに言動が少し老成しすぎているかなと思った」との声もあり、キャラの年代設定と言動のミスマッチを指摘する意見もありました。
  5. 「加賀の活躍が地味?」 – シリーズファンからは「東野圭吾にとっても初期の作品で、加賀恭一郎にとっても最初の事件ということから期待して読んだのだが、ちょっと期待はずれというところだ」という残念がる声も聞かれます。具体的には「加賀恭一郎の活躍が期待外れだった。2作目以降に期待したい」とのコメントも見られ、後の加賀シリーズ作品に比べると事件解決に向けた加賀の活躍が地味に感じられた、あるいは加賀のキャラクター性がまだ薄味だという評価のようです。シリーズ第1作ゆえ探偵役の魅力が確立しきっていない部分は否めず、その点を物足りなく思った読者もいたようです。

以上のように、『卒業』への読者の反応は総じて好意的なものが多いですが、一部にはトリックの難解さや動機の弱さ、時代ゆえの古臭さを指摘する声もありました。しかし、「多少の不満はあっても全体としては面白かった!」というレビューが多く見られることから、長年読み継がれるロングセラーにはやはりそれを上回る魅力が備わっていると言えるでしょう。

次回への期待:加賀恭一郎と『眠りの森』へ続く物語

シリーズ第2作目『眠りの森』(1989年刊)では、なんと加賀恭一郎が警視庁捜査一課の刑事となって再登場します。『卒業』のラストで教師を志していたはずの加賀が突然刑事となっている展開には驚かされますが、これは作者である東野圭吾さんの「ちょっとしたイタズラ心」から生まれた設定だといいます。読者としては「学生・加賀」から「刑事・加賀」への急成長ぶりに戸惑いつつも、再び彼の活躍を追えることにワクワクさせられる展開です。

『眠りの森』の舞台は一転して東京バレエ団という華やかな世界。新人刑事となった加賀恭一郎がバレリーナたちの間で起きた殺人事件に挑む物語で、環境も登場人物も『卒業』とは大きく異なります。大学の仲間内で起きた青春ミステリーから、都会の芸術界を舞台にした本格推理へとシリーズの色合いが変わることで、加賀というキャラクターの新たな一面が引き出されることに期待が高まります。果たして教師になる夢を捨てて刑事となった加賀に、『卒業』での苦い経験はどう生きてくるのか? そして警察官となった彼はどのように事件と向き合うのか? 続巻では加賀の成長と変化に注目です。

また、シリーズを追っていくと加賀恭一郎という人物像も深みを増していきます。『卒業』事件から数年後、30代の刑事となった加賀は人情味と鋭い洞察をあわせ持つ探偵役として読者に愛される存在となりました。特に第8作『新参者』以降は映像化もされ、阿部寛さんが演じる加賀恭一郎像が広く知られるようになりました。そうした完成されたイメージを持つ加賀刑事も、原点である『卒業』ではまだ未熟さや青さが残っています。次巻『眠りの森』では、刑事として一歩踏み出したことで加賀の推理力や人間的魅力が一層際立ってくることでしょう。

『眠りの森』そのものも評価の高い作品であり、後にテレビドラマ化もされています(2014年に「新参者」シリーズ特別篇として映像化)。バレエという異色の題材と加賀恭一郎の論理がどう絡むのか、前作とは違ったテイストのミステリーが楽しめます。シリーズ読破を目指す読者にとって、『卒業』で提示された加賀の人間関係(彼の父親との確執など)が『眠りの森』以降でどう描かれていくのかも興味深いポイントです。次回作への期待としては、加賀恭一郎という探偵の成長と、東野圭吾さんがどんな「実験」を次に仕掛けてくるのか、両方の面白さに注目したいところです。

関連グッズ紹介:原作&映像作品・加賀恭一郎の世界をもっと楽しむ

原作小説『卒業』 – 言うまでもなく本作そのものがまず手に取るべき一冊です。現在は講談社文庫から新装版が発売中で、電子書籍版も入手可能です。装丁もスタイリッシュにリニューアルされており、シリーズ入門編として本屋でも目立つ存在です。まだ読んでいない方はぜひ原作小説で加賀恭一郎の原点に触れてみてください。

加賀恭一郎シリーズ他作品 – 『卒業』を気に入ったら、シリーズの他の作品も読み進めてみましょう。順番に読むなら第2作『眠りの森』、第3作『どちらかが彼女を殺した』、第4作『悪意』…と続いていきます(※特にミステリー色の強い作品として第3作・第4作は有名です)。近年の作品では第10作『祈りの幕が下りる時』まで刊行されており、加賀恭一郎シリーズ全体を通して読むと一つの大きな人間ドラマが味わえます。

映像作品(ドラマ・映画) – 加賀恭一郎シリーズはテレビドラマや映画にもなっています。中でも阿部寛さん主演の「新参者」シリーズ(2010年放送の連続ドラマ『新参者』およびスペシャルドラマ『赤い指』『眠りの森』、映画『麒麟の翼』『祈りの幕が下りる時』)は有名で、原作ファンにも高い支持を得ました。ドラマ版では人形町を舞台に加賀の人情派刑事ぶりが際立っており、原作とはまた一味違う魅力があります。『眠りの森』も2014年に阿部寛主演でスペシャルドラマ化されているので、本作の続編を映像で楽しみたい方はこちらもおすすめです。なお、加賀恭一郎役は1993年のテレビ朝日版ドラマ(『眠りの森の美女殺人事件』)では山下真司さんが演じており、メディアごとに異なる加賀像を見比べるのも面白いでしょう。

オーディオブック – 読書の時間が取りづらい方や視力の弱い方には、オーディオブック版『卒業』も朗報です。Audible版では加賀恭一郎の声を高橋克典さんが担当しており、渋いボイスで物語に浸ることができます。プロの朗読によってミステリーの臨場感が増し、新たな発見があるかもしれません。

関連グッズ – 加賀恭一郎をテーマにしたグッズ自体は公式には多くありませんが、ドラマ『新参者』関連のグッズやロケ地マップ、本の装丁を模したグッズ(ブックカバーやしおり)などがファンの間で楽しまれています。特に人形町の舞台を巡る「加賀恭一郎の散歩マップ」なるものが話題になったこともあり、聖地巡礼的にシリーズの世界観を楽しむこともできます。もしドラマ版から入った方は、原作小説と合わせてそうした関連アイテムにも触れてみると、より一層加賀ワールドを満喫できるでしょう。

(上記グッズやリンクは記事執筆時点の情報です。在庫状況や価格は変動する可能性がありますのでご了承ください。)

まとめ

大学卒業間近の瑞々しい青春群像と、本格ミステリーの醍醐味が見事にブレンドされた東野圭吾さんの『卒業』。加賀恭一郎シリーズの序章にあたる本作は、後のシリーズ作品とは一味違う初々しさと切なさが光る物語でした。犯人探しのスリルだけでなく、登場人物たちの心情ドラマに心を揺さぶられ、読み終えた後にはタイトル『卒業』の意味の深さにしみじみと考えさせられます。東野圭吾さんのファンはもちろん、青春小説が好きな方や本格推理ファンにも幅広くお薦めできる一冊です。

評価:★★★★☆(4/5)
静かに心に沁みる青春ミステリーの傑作。巧妙な謎解きとほろ苦い余韻があなたを待っています。

加賀恭一郎の原点とも言える本作、皆さんはどう感じましたか? 読後に胸に去来するものは何だったでしょうか。ぜひ感想や考察をコメントで教えてください。そしてこの記事が面白かったと思った方は、SNSでシェアして加賀恭一郎の魅力を広めてくださいね! 次なる『眠りの森』での加賀の活躍にも期待しつつ…それでは、また本の世界でお会いしましょう。📚✨

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morishy

職業:外資系ITサービス企業での技術職 趣味:読書、アニメ/ドラマ/映画鑑賞、スポーツ観戦、ゲーム、プラモなど 自己紹介: IT企業で技術職で働いており、新しいものについて比較的興味を持ちやすい体質です。最近は読書やアニメ、ドラマを中心とした動画鑑賞にどっぷりはまっており、作品の良いところを中心に紹介したいと考えて立ち上げました。 好き嫌いがない性格なので、結構幅広く作品を鑑賞しているので、皆さんの今後の読書や動画鑑賞に活かしてもらえるような情報提供ができれば幸いです。

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