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(あらすじ・感想)『ノッキンオン・ロックドドア』(2016年)をヨム!正反対の探偵が挑む“不可能”の真実

青崎有吾さんの『ノッキンオン・ロックドドア』は、タイプも推理アプローチも正反対な二人組探偵が“不可能”な謎に挑む連作ミステリーだ。巻き毛で飄々とした男・御殿場倒理(ごてんば とうり)と、スーツ姿でクールな男・片無氷雨(かたなし ひさめ)。相棒でありライバル(!?)でもある二人は探偵事務所「ノッキンオン・ロックドドア」を共同経営し、日々持ち込まれる奇妙な難事件に挑んでいく。第1巻では全7編の物語が収録されており、それぞれに密室殺人やダイイングメッセージといった不可解な謎が用意されている。読み始める前は「新世代本格ミステリ作家が贈るダブル探偵物語」という惹句に胸が高鳴ったが、読み終えてみると期待以上に軽快でクセになる一冊だった。謎解き重視のテンポ良い展開に引き込まれ、「次はどんな不思議な事件が待っているんだろう?」とページを繰る手が止まらなくなる読書体験だった。

著者紹介

青崎有吾(あおさき ゆうご)さんは1991年生まれ、横浜市出身の推理作家だ。明治大学在学中に書いた『体育館の殺人』で2012年に第22回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。平成生まれとして初の同賞受賞者となり、“平成のエラリー・クイーン”との異名を取る本格ミステリ界の若きエースでもある。デビュー以来、徹底した論理と意外性のあるトリックで読者を魅了し、代表作に裏染天馬シリーズ(『体育館の殺人』『水族館の殺人』『図書館の殺人』など)や連作短編集『早朝始発の殺風景』、ファンタジーミステリの『アンデッドガール・マーダーファルス』など多彩な作品を発表している。近年では『ノッキンオン・ロックドドア』シリーズが第70回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)の候補作となり、最新長編『地雷グリコ』では本格ミステリ大賞・日本推理作家協会賞・山本周五郎賞を史上初めて同一週で受賞する快挙を成し遂げた。鮎川哲也賞受賞時に選考委員から「エラリー・クイーンばりのロジカルな推理に堂々と挑戦している」と評された通り、青崎さんは緻密な謎解きとロジックを重視した本格ミステリを得意とする作家だ。本作『ノッキンオン・ロックドドア』でもその持ち味が遺憾なく発揮されている。

登場人物紹介

  • 御殿場倒理(ごてんば とうり) – 私立探偵。「ノッキンオン・ロックドドア」探偵事務所の共同経営者の一人で、「不可能専門」探偵として密室事件や完全犯罪のトリック解明(HOW)を担当する。天然パーマの青年で砕けた性格。常識外れの大胆な発想でトリックを見抜く一方、WHY(動機や背景)の部分は苦手なため、それ以外の推理は相棒の氷雨に任せている。第1巻では、冒頭の事件で「どうやって密室殺人が行われたか」を鮮やかに解明し読者を驚かせる。その奔放な推理スタイルと飄々とした振る舞いから、警察関係者を呆れさせる場面もあるが、事件の核心に迫る着眼点は鋭い。
  • 片無氷雨(かたなし ひさめ) – 私立探偵。倒理と共に事務所を営む「不可解専門」探偵で、奇妙な遺留品や不可解な状況から事件の動機・理由(WHY)を読み解くプロフェッショナル。常にスーツを着こなした理知的な青年で、倒理とは対照的にクールで生真面目な性格。HOW(トリック)には弱いため、自らの不得手は倒理に補完してもらっている。第1巻では、例えば被害者が遺した不可解なメッセージや現場の不自然な状況に潜む“犯行の目的”を解説し、読者を「なるほど!」と唸らせる活躍を見せる。倒理とは口論も絶えないが、二人で協力すれば一人前というコンビぶりで難事件を次々に解決していく。
  • 穿地決(うがち かける) – 警視庁の若手刑事。倒理と氷雨とは大学時代のゼミ仲間で、現在も友人かつ良き協力者だ。勝ち気な性格で口は悪いが、上司に内緒で事件現場を二人に見せてくれたりと何かと便宜を図ってくれる頼もしい存在。ただし「謎が解けたら手柄は全部自分のものにする」という条件付きで協力する食えない人物でもある。作中では捜査会議で得た警察情報を流してくれたり、現場検証に二人を立ち会わせたりと探偵コンビの捜査を陰ながら支える。倒理に対しては軽口を叩き合う仲で、第1巻でも彼のお菓子好きエピソード(会議中につまみ食い?)などコミカルなシーンを提供してくれる。
  • 薬師寺薬子(やくしじ くすりこ) – 「ノッキンオン・ロックドドア」探偵事務所でアルバイトをする女子高生。17歳ながら家政婦のように事務所の雑事を手伝い、倒理と氷雨の掛け合いに鋭いツッコミを入れるマスコット的存在だ。勝気で大人びた性格をしており、第1巻では彼女が何気なく口にした一言が事件解決の大ヒントになる場面もある。倒理と氷雨の奇妙なバディ関係を近くで見守りつつ、読者目線で物語に少しだけ関与する語り手役も担っている。ドラマ版ではオリジナルキャラクターかと思われたが、原作小説にも登場しており、その落ち着いた洞察力は物語にスパイスを加えている。
  • 糸切美影(いとぎり みかげ) – 倒理・氷雨・穿地とは大学時代からの知人で、かつて同じ犯罪心理学のゼミに所属していた男。現在は姿をくらまし、裏社会で「犯罪コンサルタント」として暗躍する謎の人物である。第1巻では中盤以降、彼が陰で関与したと思われる事件が浮上し、現場には彼の“お遊び”としてロックバンド「チープ・トリック」の歌詞が手掛かりに残される。倒理と氷雨にとっては因縁の宿敵とも言える存在で、二人は美影の仕掛けた難事件に挑み、その裏に潜む彼の真意を探っていくことになる。物語全体を通して、彼と探偵コンビとの過去に起こった“ある事件”が鍵となっており、その謎めいた背景が少しずつ明かされていく。
  • 神保剽吉(じんぼ ひょうきち) – 世間から依頼を受けては倒理と氷雨の事務所に仲介してくる便利屋的ブローカー。飄々とした中年男性で、人脈を活かして探偵たちに仕事を斡旋している。第1巻では彼のおかげで依頼人が事務所を訪れる形で物語が始まることも多く、いわばストーリーテラーの黒子的存在だ。本人が捜査に深く関わる場面は少ないが、倒理たちとの軽妙なやり取りから、探偵事務所の日常風景やユーモアを感じさせてくれるキャラクターである。

あらすじ(ネタバレなし)

第1巻は全7話からなる連作短編集で、それぞれ独立した謎解きエピソードが収録されている。舞台は東京・三鷹にある探偵事務所「ノッキンオン・ロックドドア」。インターホンもドアチャイムもノッカーもない風変わりな事務所の扉を、不安げなノックで叩く依頼人たち――それが難事件の始まりを告げる合図だ。

物語冒頭の「ノッキンオン・ロックドドア」(第1話)は、ある画家の屋敷で発生した殺人事件。現場は完全な密室、容疑者は全員アリバイありという典型的な“不可能犯罪”で、倒理がそのトリック解明に挑む。一方、氷雨は同じ事件で発見された被害者の奇妙なメッセージ(現場に残された不可解な言葉)に着目し、犯行の動機を読み解こうとする。二人の視点が交差し、それぞれの推理が補完し合うことで事件の全貌が浮かび上がる構成だ。タイトルにもなっているこの第1話から、HOWとWHYの両面から謎に迫る新鮮なスタイルが存分に発揮されており、本シリーズのイントロダクションにふさわしい幕開けとなっている。

続く各エピソードでも、ユニークで不可思議な事件が次々と描かれる。例えば第2話「髪の短くなった死体」では、劇団員の男性が殺害されるが、発見時になぜか被害者の髪が切り揃えられ短くなっていたことが判明する。誰が何のために死体の髪を切ったのか? その不可解な状況に隠された真実に、氷雨が挑むことになる。また第3話「ダイヤルWを廻せ!」では、倒理と氷雨が別々に担当した二つの事件が実は一本の線で繋がっていた…という展開が用意されており、二人の推理が交錯する様子がスリリングに描かれる。倒理が追うのは「開かずの金庫」をめぐる謎、氷雨が調べるのは奇妙な殺人事件。その二つがやがて一点に収束し、一つの真実へと行き着く様子は読み応え充分だ。

第4話「チープ・トリック」では物語の鍵を握る男・糸切美影が初登場し、探偵二人VS謎の犯罪コンサルタントという図式が初めて提示される。暗殺予告を受けていた男性が狙撃され死亡するという事件で、「どうやって射殺は実行されたのか?」(不可能)と「なぜ事前に暗殺を予見できたのか?」(不可解)という二重の謎が提示される。倒理と氷雨はそれぞれのアプローチで真相に迫るが、その陰には美影の存在がちらつき始める。第5話「いわゆる一つの雪密室」では雪山の山荘で起きた事件に挑むが、ここでは二人の推理が珍しく行き詰まったり、ミスリードをしてしまう描写もあり、完璧超人ではない人間らしさが垣間見えるエピソードとなっている。閉ざされた雪の密室で明かされる意外な真相には驚かされるだろう。

第6話「十円玉が少なすぎる」は異色の一編で、探偵事務所の中だけで展開するアームチェア・ディテクティブ(安楽椅子探偵)的な推理合戦だ。依頼人すら登場せず、倒理・氷雨・薬子が会話だけで「十円玉が5枚足りない謎」について推理を交わすという実験的趣向になっている。謎解き自体は推理ゲームのような軽いものだが、本格ミステリ史へのオマージュが込められており、ミステリ読みならニヤリとできる仕掛けだ(※このアイデアは若竹七海『五十円玉二十枚の謎』へのオマージュであり、本作以外にも青崎作品では度々取り上げられるテーマだという)。そしてラストの第7話「限りなく確実な毒殺」は書き下ろしの新作で、人目のあるパーティー会場で政治家が毒殺される謎に挑むクライマックスだ。大勢の目前でどうやって毒を盛ったのか? 倒理が“不可能”トリックを暴き、氷雨が“不可解”な動機を解き明かすフィナーレとなっている。

各エピソードは基本的に一話完結だが、第4話以降、作品全体の縦軸となる大きな謎が少しずつ浮上してくる。それは倒理・氷雨・穿地・美影ら4人の過去に起きた“ある事件”に関わる秘密であり、各話の合間に断片的に示唆される。第1巻ではその全貌は明かされず謎は持ち越しとなるが、物語に通底する不穏な気配として読者の興味を掻き立てる。短編ごとの読みやすさと、シリーズ全体の謎への引き込み――二つの要素を巧みに両立させた構成も本作の魅力と言えるだろう。

※なお、上記は各話の基本的な状況までに留めており、肝心のトリックや犯人・真相部分には触れていません。いずれの事件も倒理と氷雨が最終的にHOWとWHYの両面から論理的に解決してくれるので、ぜひ本編でその爽快な種明かしを味わってほしい。

感想

青崎有吾さん渾身のダブル探偵ミステリ、第1巻は期待通りの面白さと新鮮さに溢れていた。まず感じるのは、物語のテンポの良さである。各話40ページ前後という短めの尺の中に謎提示から推理、解決までが無駄なく詰め込まれており、ダレる暇がない。倒理と氷雨がそれぞれの専門分野で推理を披露し合い、読者も「トリックは何だろう?」「犯人の動機はどこに?」と考えながら物語を追ううちに、気づけば一気読みしてしまった。実際、「初めて探偵系小説を飽きずに最後まで読めた。飽きっぽい人にもおすすめ」という声もあるほどで、軽快なリズムと次々に押し寄せる謎解きの連鎖が本書最大の魅力だろう。

また、倒理と氷雨のキャラクターの魅力と掛け合いの面白さも特筆に値する。正反対の性格ゆえにぶつかり合いながらも、いざ謎に向き合えば抜群のコンビネーションを発揮する二人の関係性は読んでいて微笑ましく、時に熱い。お互いをニックネームで呼び合ったり毒舌を叩き合ったりする様子には相棒ならではの信頼感がにじんでおり、その絶妙な距離感が物語にユーモアと人間味を与えている。「御殿場くんと氷雨くんの掛け合いが癖になった」と語る読者も多く、私自身も事件の合間に見せる二人の掛け合いシーンに何度クスリとさせられたことか。特に穿地刑事や薬子ちゃんを交えたトリオ・コントのようなやり取りは、シリアスな謎解きとの緩急が効いていて読後の印象を明るくしている。

肝心のミステリ部分についても、一話ごとに少なくとも一つは驚きのトリックや意表を突く真相が用意されており、短編ながら毎回しっかり「やられた!」と感じさせてくれる。とりわけ第1話のオチは「そう来たか!」と思わず膝を打つ見事なもので、一見バカミス(荒唐無稽なミステリ)的な密室トリックに見えながら、弱点を巧妙な動機付けで補っていた点が絶妙だった。他にも、第3話で描かれた倒理と氷雨の推理が交錯する展開はシリーズならではの醍醐味だし、第6話の実験的な推理遊びは賛否あるにせよ異色で楽しめた。全7編、バラエティ豊かな謎が揃っており「色々な事件が出てくるので1冊で結構満足」との感想も頷ける。一冊で七度おいしい、読書好きには嬉しい構成だ。

もっとも、良かった点ばかりではなく若干気になった点もいくつかあった。例えば、全体としてライトでサクサク読める反面、キャラクターの心情描写やドラマ性といった部分は抑えめで淡泊に感じるところもあった。倒理と氷雨の過去にまつわる謎が本格的に動き出すのは第4話以降なので、第1~3話あたりでは二人の人物像や背景に関する描写が最小限で、その分純粋なパズルの面白さに振り切っている印象だ。個人的にはテンポ重視の作風は好きなので不満はないが、人によっては「推理パート中心で物語の厚みに欠ける」と感じるかもしれない。事実、「一つ一つが短くさらっとしている」という指摘や、「もっとキャラの掘り下げが欲しい、続編での深みに期待」といった声も見受けられた。この点、第2巻では二人の過去がより掘り下げられ物語に奥行きが増すようなので、第1巻はシリーズ序章としてテンポの良さを優先した構成だったのだろうと理解している。

さらに言えば、いくつかのトリックには「それ本当に可能?」「ちょっと都合良すぎない?」と感じる部分もあった。私はフィクションとして楽しめたが、緻密さを重視する読者の中には細部のリアリティに物足りなさを指摘する向きもあるようだ(後述の読者の反応参照)。しかし総じて見れば、第1巻は青崎ミステリの新たな挑戦に満ちた快作であり、読み終えた後には「倒理と氷雨の活躍をもっと見ていたい!」と素直に思わされた。ライトなノリの中にもロジックの核はしっかり通っており、本格好きも納得の一冊だろう。倒理と氷雨という正反対バディが織りなす不思議な魅力に、すっかり虜になる読書体験だった。

考察・解説

『ノッキンオン・ロックドドア』第1巻は、一見するとコミカルでライトな短編集だが、その背景にはいくつものユニークな試みやテーマが潜んでいる。本章では物語をより深く味わうための考察ポイントや、作品の意図について解説してみたい(ネタバレは極力避けます)。

まず注目すべきは、「ダブル探偵」という設定がもたらす物語上の効果だ。倒理(HOW担当)と氷雨(WHY担当)という分業体制は非常に珍しく、ミステリの定石を大胆にアレンジした試みと言える。通常、探偵役は一人でトリック解明も動機の解明もこなすものだが、本作では二人で一つの事件を解き明かす。これにより、読者は事件ごとに二種類の推理プロセスを同時に楽しめるようになっている。倒理が「どうやってこんな犯行が?」と物理トリックに頭を悩ませ、氷雨が「なぜこんな奇妙な状況に?」と心理的謎に迫る――この並走する推理の掛け合いが本作最大の特徴だ。

興味深いのは、二人がそれぞれの興味以外には無頓着である点だ。倒理は動機や人間ドラマには関心が薄く、氷雨はトリックの細部にこだわらない。そのため、お互いの推理を補完し合わなければ真相にたどり着けない仕組みになっている。つまり「探偵二人で一人前」というわけだ。この設定は物語上の緊張感を生みつつ、従来のミステリでは省略されがちな部分を敢えて描く意義にもつながっている。たとえば倒理がトリックを暴けば犯人候補は自然と絞られるが、氷雨が動機を解き明かすことで初めて事件の全貌が浮かび上がる。犯行方法(HOW)と動機(WHY)の両輪が揃って初めて真相に迫れるという構造は、「謎=トリック解明」に偏りがちな本格ミステリに一石を投じる実験的な構造だとの指摘もある。実際、本作では犯人探し(フーダニット)の要素は意図的に影を薄くしてあり、そこを大胆に省略したスピード感が作風の肝になっている。

また、語り口の工夫も見逃せないポイントだ。各エピソードの語り手は倒理と氷雨で入れ替わり、時には薬子が一人称視点を務めることもある。章ごとに語り手が変化することで、読者は異なる視点から事件を見る体験を味わうことになる。ただし、一人称が入れ替わるため誰の視点なのかを読み分ける必要がある点は最初少し戸惑うかもしれない。倒理編はくだけた口調で、氷雨編は几帳面な語り…という風に、文体の違いでキャラクターの個性が表現されているのがお分かりいただけるだろう。これはキャラ小説としての側面も持つ本作ならではの演出であり、それぞれの内面に少しずつ触れていくうちに二人への愛着が深まっていく。語り手交代制のおかげで、倒理ばかり・氷雨ばかりが目立つという偏りもなく物語が進む点は巧みだ。

さらに、本作にはミステリ好きなら思わずニヤリとする小ネタやオマージュが随所に散りばめられている。前述の第6話「十円玉が少なすぎる」における若竹七海『五十円玉二十枚の謎』へのオマージュはその一例だ。また、第4話以降で暗躍する糸切美影というキャラクターは、金田一少年の事件簿でいう高遠遙一(怪人♂二十面相的な存在)に相当する“黒幕の犯罪コンサルタント”として描かれており、その存在自体が往年の探偵小説におけるモリアーティ的な楽しさを感じさせる。ドラマ版視聴者の中には「美影はドラマオリジナルかと思ったら原作にも出てきて驚いた」という人もいたが、実は原作からしっかり登場している。彼が残す「チープ・トリック」の歌詞引用という痕跡も含め、遊び心と本格的謎解きとが同居するバランス感覚は青崎作品らしい粋な計らいだ。

物語全体のテーマとして浮かび上がるのは、やはり「正反対の二人が協力して真実を解き明かすこと」だろう。倒理と氷雨は性格も得意分野も真逆だが、不思議と馬が合い一緒にいると力を発揮する関係だ。彼らの大学時代に何があったのかは第1巻の段階では断片的にしか語られないが、それでも互いを信頼し合う相棒関係が成立している背景には、過去に共有したある事件の体験が影を落としているようだ。対照的だからこそ補い合える衝突しながらも共に前へ進める──そんなバディの在り方が、本作の根底に温かく流れているように思う。ラストまで読むとタイトル「ノッキンオン・ロックドドア(固く閉ざされた扉をノックする)」も象徴的に感じられるかもしれない。開かずの扉(=解けない謎)に挑み続ける二人の姿は、ミステリに挑戦する作者自身の姿勢とも重なり、本格ミステリへの愛と挑戦心が詰まった作品だと感じられた。

読者の反応

『ノッキンオン・ロックドドア』第1巻は、そのユニークな設定と軽快な内容から大きな注目を集め、多くの読者から様々な感想が寄せられている。以下に、SNSや書評サイトで見られた主なポジティブな反応ネガティブな反応を5つずつピックアップして紹介しよう。

ポジティブな反応(好評) 🟢

  • テンポが良くて一気読み! 謎解きに無駄なドラマパートがなくスイスイ読めました。探偵モノは退屈に感じることも多かったけど、この小説は推理パート満載で楽しい。キャラも個性的で面白く、事件現場の略図まで載っているので情景が掴みやすかったです。飽きっぽい私でも初めて最後まで退屈せず読めたので、ミステリ初心者にもおすすめできます。」
  • バディの掛け合い最高! 御殿場くんと氷雨くんの軽妙なやり取りが癖になりました。お互い皮肉を言い合いながらも信頼し合っている感じが微笑ましいです。穿地刑事のお菓子ネタも毎回楽しみでした。二人の過去に何があったのか匂わされていて、これから明かされると思うとワクワクします。」
  • HOWとWHYの組み合わせが新鮮! 二人で一つの謎を解く発想が斬新で期待以上に面白かったです。密室トリックを解く倒理と、動機を解く氷雨という構図が新鮮で、謎が解けていく過程に夢中になりました。ドラマでも見ていましたが、小説で読むとまた違った面白さがありますね。原作2巻もあると知って、このシリーズをもっと読みたくなりました。」
  • いろんな謎が楽しめてお得感◎ 短編集ということで様々なタイプの事件が詰まっていて、一冊でかなり満足度が高いです。密室あり、アリバイトリックあり、ダイイングメッセージありで本格ミステリの見本市みたい。どの話にも少なくとも一つ“おおっ”と思わせる仕掛けがあって、ミステリ慣れした自分でも十分楽しめました。読み終わった勢いでそのまま続刊の第2巻に突入したくらいです。」
  • ライトで読みやすい本格ミステリ。グロテスクな描写もなく内容も軽妙なので、気分転換にピッタリでした。探偵2人+女子高生バイトの掛け合いが微笑ましくて楽しいし、雰囲気的には少年漫画やライトノベル感覚で読める本格ものですね。社会派要素などは薄いですが、その分肩肘張らずに純粋な謎解きを楽しめる貴重な作品だと思います。」

ネガティブな反応(賛否両論・批判) 🔴

  • 最初以外はイマイチ… 発想は斬新だし第1話(表題作)はバランスの取れた良作でしたが、2話目以降は尻すぼみに感じました。タイトル作並みのクオリティの短編がもう一つ二つあれば最高でしたが、後半に進むほどインパクトが薄れていったのが残念です。シリーズを続けるなら、ネタ切れにならないようもう少し練ってほしいところ。」
  • 設定倒れの普通のミステリ。トリック担当とロジック担当のコンビという着想に期待しましたが、表題作以外はその設定が活きておらず、結局普通の推理ものになってしまっています。タイプの違うイケメンコンビというのはメディアミックス(ドラマ化や二次創作)狙いのようにも思え、その割に設定を活かしきれていない印象です。せっかく面白いコンセプトなのに企画倒れ感が否めず、高評価はつけづらいですね。」
  • 論理の飛躍が多い。作者は論理を履き違えているというか、探偵役が確率論を断定にすり替えるような推理をする場面が目立ちました。例えば「バスルームのシャンプーの位置がこうだからこの人は最初に髪を洗うタイプだ」みたいな描写には首をかしげます。それで犯人だと決めつけるのは暴論でしょう。細かいことを論拠に挙げる割に他の部分で破綻が多く、ロジック重視を掲げるならもう少し緻密さが欲しいと感じました。」
  • トリックがご都合主義。全体的にトリックに無理があり、リアリティに欠けます。各話とも偶然に頼りすぎだったり、捜査で気付きそうな痕跡を作者の都合で伏せているような印象で、ミステリとしてフェアじゃない部分が散見されました。特に第2話はツッコミどころ満載で、『科捜研の女』ファンなら「そんなの指紋消えないでしょ!」と総ツッコミ入れたくなるはず。設定やキャラは嫌いじゃないのですが、肝心の謎解きに納得できないと楽しさも半減です。」
  • 腐女子狙い?距離が近すぎ。倒理と氷雨の関係性について、BLとまでは言わないけど男同士にしては距離感が異様に近い描写が結構ありました。作者は相棒感を出すために書いているのでしょうが、人によっては「やりすぎ」と感じるかもしれません。実際、そういった描写を苦手とする層には敬遠されそうだなと…。私は気になりませんでしたが、読む人を選ぶ部分かもしれません。」

以上、読者の声をまとめると、概ね「新鮮で面白い!」というポジティブな評価が多い一方で、「緻密さに欠ける」「設定を活かしきれていない」といった批判も一部で見られたことが分かる。もっとも、否定的な意見においても「キャラや設定は嫌いじゃない」「表題作は良かった」という声があり、基本コンセプト自体は読者に受け入れられている印象だ。総合すると、「ライトで爽快な本格ミステリとして楽しめた」「細かい粗はあれど新しい試みに拍手」といった評価が妥当だろうか。今後のシリーズ展開次第で評価がさらに上がる可能性も十分に感じられる読者反応だった。

次回への期待

第1巻のラストでは、倒理と氷雨の過去に関わる謎が完全には解決されずに残されている。読了した誰もがきっと、「二人の大学時代に一体何があったのか?」という疑問を抱くことだろう。幸い本シリーズには続巻があり、第2巻『ノッキンオン・ロックドドア2』では第1巻で蒔かれた伏線が回収され、二人に絡む“五年前の事件”の真相が明らかになるという。次回作では、美影が仕掛けた最後の難事件に倒理・氷雨・穿地が立ち向かい、大学時代からの因縁に決着をつけることになるはずだ。第1巻第4話以降にほのめかされ続けた彼らの過去の秘密がどのように物語のクライマックスで明かされるのか、大いに注目したい。

また、第2巻以降では倒理と氷雨それぞれの人間的成長や関係の変化にも期待したいポイントがある。第1巻ではあくまで互いを「利用価値があるから組んでいる」程度のスタンスだった二人だが、幾多の事件を経て培われた信頼関係が、次巻ではより明確に描かれるのではないだろうか。特に過去の因縁と向き合うことで、倒理が抱えるトラウマや氷雨の内面に踏み込んだドラマが展開される可能性が高い。正反対の二人がバディとしてどう成長していくのか、物語の縦軸に注目しつつ見守りたい。

もちろん、ミステリのバリエーションという点でも第2巻への期待は膨らむ。第1巻では7編ものユニークな事件が楽しめただけに、続巻でも新たな“不可能”&“不可解”な謎が登場するだろう。実際に第2巻では「消える少女」「穴の開いた密室」など魅惑的なタイトルの事件が収録されているようで、どんなトリックが飛び出すのか今から想像が膨らむ。読者の中には「続編ではレベルアップしたトリックを」「もっと二人のコンビネーションを見せてほしい」と望む声も多く、作者がそれにどう応えてくれるか楽しみだ。

さらに、シリーズのその後にも期待したいところだ。現在第2巻まで刊行されている本シリーズだが、ドラマ化による人気上昇もあり第3巻の刊行が待望されている(2025年5月時点で第3巻は発売日未定)。青崎先生自身、多くのインタビューで「倒理と氷雨のこれからの物語」を示唆しているとのことで、彼らダブル探偵の新たな活躍に胸を躍らせずにはいられない。次回作ではどんな扉をノックすることになるのか? 二人の挑戦はまだ始まったばかりだ。ファンとしては、さらなる難事件とドラマを用意してシリーズを盛り上げてほしいと願わずにはいられない。

関連グッズ紹介

原作小説『ノッキンオン・ロックドドア』を楽しんだら、ぜひチェックしてみたい関連グッズやメディアミックス展開がいくつか存在する。

  • 原作小説(徳間書店) – 第1巻と第2巻が刊行中。第1巻は2016年にハードカバーで刊行後、2019年に徳間文庫から文庫版が発売されている。第2巻は2019年に単行本発売、2022年に文庫化された。電子書籍も各ストアで入手可能だ。まずは原作小説で二人の活躍を存分に楽しもう。
  • コミカライズ版(ウェブトゥーン) – 青崎有吾(原作)・繭つ麦(漫画)によるコミカライズが、フルカラー縦読みマンガアプリ「HykeComic」で連載中。2022年より配信が開始されており、現在第1巻収録エピソードを中心にコミック化が進行している。スマホで手軽に読める形態で、倒理と氷雨の掛け合いもビジュアル豊かに楽しめる。漫画ならではの表現で事件の謎解きを追体験してみるのも一興だ。
  • テレビドラマ版 – 2023年7月期にテレビ朝日系「オシドラサタデー」枠で実写ドラマ化された。御殿場倒理役を松村北斗さん(SixTONES)、片無氷雨役を西畑大吾さん(なにわ男子)が演じ、話題を呼んだ。映画『トリック』シリーズなどで知られる堤幸彦氏がメイン監督を務め、全9話(エピソード6本分)構成で放送。基本的な事件の内容やトリックは原作に忠実だが、ドラマ独自のアレンジとしてシリーズ全体の核心(過去の事件)に関わるエピソードを大胆に再構成しており、原作既読者も新鮮に楽しめる内容となっていた。現在はDVD/Blu-ray化済みで、Amazonプライムビデオ等の配信でも視聴可能(2025年5月時点)。ドラマで興味を持った方は原作へ、原作ファンの方は映像で動く倒理&氷雨にもぜひ触れてみてほしい。
  • ドラマ公式シナリオブック – 浜田秀哉氏脚本によるドラマ版全エピソードのシナリオを収録した公式シナリオブックも発売されている。ドラマでカットされたディテールや脚本段階でのセリフなど、ファンには嬉しい内容が満載だ。キャストインタビューやメイキング写真などが掲載されている場合もあり、ドラマの余韻を楽しむグッズとしておすすめ。
  • 関連グッズ(ドラマグッズ等) – ドラマ放送時には公式グッズも展開された。例えば、劇中で倒理と氷雨が所属する探偵事務所のロゴ入りグッズ(クリアファイル、マグカップ、Tシャツなど)や、倒理愛用の万年筆モデル、劇中小道具を模したアクセサリー類などが販売されていた模様だ。ファン有志による考察本やレビュー同人誌などもイベントで頒布されており、探せば関連アイテムはいろいろ見つかるだろう。公式グッズはテレビ朝日の通販サイトやイベント会場限定で販売されていたので、入手は現在困難かもしれないが、中古市場やフリマアプリで探してみるのも手だ。
  • その他関連書籍 – 青崎有吾さんの他の作品も『ノッキンオン・ロックドドア』ファンにはぜひ読んでほしい。特に、同じ倒理&氷雨コンビが登場する短編「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」(裏染天馬シリーズ短編集『11文字の檻』所収)では、本作第6話と同じく“五十円玉二十枚の謎”オマージュが扱われており、作者の遊び心を感じられるはずだ。また、倒理たちの大学時代を描くスピンオフや、彼らのその後を描くエピソードが今後発表される可能性もあるので、ファンは公式サイトやTwitterなどで情報をチェックしておこう。

以上、原作小説から映像化作品、関連グッズまで、『ノッキンオン・ロックドドア』の世界をより深く楽しむための情報を紹介した。好きな媒体で倒理&氷雨の活躍を追いかけ、様々な角度から“不可能”と“不可解”の謎解きを堪能していただきたい。

まとめ

青崎有吾さんの『ノッキンオン・ロックドドア』第1巻は、正反対コンビの探偵が織りなす痛快本格ミステリとして大いに楽しめる作品だった。軽妙な語り口とテンポの良い短編構成で読みやすく、それでいて各話に散りばめられたロジカルな謎解きはしっかり本格。ホワイダニットとハウダニットの両面から迫る推理劇はユニークで、新鮮な読書体験を提供してくれる。倒理と氷雨というキャラクターも魅力的で、漫才のような掛け合いから時折見せるバディの信頼感まで、思わずニヤリとさせられる場面が満載だ。

総合評価を☆5点満点で表すなら、⭐️⭐️⭐️⭐️☆(4.5/5)といったところだろうか。尖った新機軸と安定した本格ミステリ性を両立させた意欲作であり、細かい粗はあれど十分に高評価に値する一冊だと感じた。特に第1話のインパクトや、全体を通じて伏線が張られるシリーズ構成には巧みさが光り、「次巻も読みたい!」と思わせる中毒性がある点も高ポイントである。

最後に一言、読後の率直な印象を述べるなら――不可能と不可解に挑む倒理&氷雨のコンビ、あなたはこの新感覚ミステリをどう評価するだろうか? 固く閉ざされた扉をノックするように、ぜひ本書を開いて彼らの活躍と謎解きの快感を味わってみてほしい。読書好きの大学生以上の皆さんに、自信を持っておすすめできるシリーズである。きっとあなたも、次の扉が開かれる音(ノッキンオン・ロックドドア!)に耳を澄ませたくなるはずだ。

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morishy

職業:外資系ITサービス企業での技術職 趣味:読書、アニメ/ドラマ/映画鑑賞、スポーツ観戦、ゲーム、プラモなど 自己紹介: IT企業で技術職で働いており、新しいものについて比較的興味を持ちやすい体質です。最近は読書やアニメ、ドラマを中心とした動画鑑賞にどっぷりはまっており、作品の良いところを中心に紹介したいと考えて立ち上げました。 好き嫌いがない性格なので、結構幅広く作品を鑑賞しているので、皆さんの今後の読書や動画鑑賞に活かしてもらえるような情報提供ができれば幸いです。

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