「泣ける漫画」と聞いて真っ先に名前が挙がる作品の一つが『3月のライオン』です。高校生プロ棋士の桐山零を主人公に描かれるこの物語、第2巻では笑いあり涙ありの濃密なエピソードが詰まっていました。ほのぼのとした日常シーンで心が温まりつつ、後半には思わず息を呑む展開も…。読了後、胸がいっぱいになって「これは神回!」と叫びたくなる充実の内容でした。この記事では、第2巻の見どころや深掘り考察、そして感じたことをたっぷりご紹介します。
著者紹介
本作の著者は 羽海野チカさん。代表作に青春群像劇の名作『ハチミツとクローバー』があり、繊細な心理描写と温かみのある作風で知られる人気漫画家です。『3月のライオン』は2007年よりヤングアニマル誌で連載が開始され、2014年には手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞するなど高い評価を受けています。羽海野チカさんは、登場人物の心情を丁寧に描き出すのが得意で、読者の心をぎゅっと掴むストーリーテリングに定評があります。日常の何気ないやりとりの中に笑いと涙を巧みに織り交ぜ、時に社会問題にも切り込む作風は、本作『3月のライオン』にも色濃く反映されています。将棋という競技の世界を舞台にしながらも、人間ドラマとして幅広い読者に支持されているのは、羽海野チカさんの描くキャラクター一人ひとりがリアルで共感できる存在だからこそでしょう。前作『ハチミツとクローバー』で培った青春群像劇の巧みさが、本作では孤独や家族愛といったテーマと融合し、更に深みを増しています。
登場人物紹介
- 桐山零(きりやま れい) … 本作の主人公。17歳という若さでプロ棋士となった五段の少年。幼い頃に家族を亡くし、義理の家族(幸田家)に育てられましたが、心に深い孤独を抱えています。第2巻では、連敗によるスランプや将棋に対する迷いが描かれ、静かな零の内面に変化が生まれる重要な局面が訪れます。普段は感情を表に出さない零ですが、本巻ではある出来事をきっかけにその感情を爆発させる場面も…。彼の心に秘めた想いがどのように表出するのか、大きな見どころです。
- 川本あかり(かわもと あかり) … 川本三姉妹の長女で20代前半。妹たちの親代わりとして一家を支える心優しい女性です。おっとりした包容力で零にとっては「東京のお姉ちゃん」のような存在。第2巻では出番こそ多くありませんが、料理上手なあかりは妹ひなたの恋を陰ながらサポートするなど、その温かさで物語を支えています。零が心を許せる数少ない大人であり、あかりの存在が零の救いになっている場面も見逃せません。
- 川本ひなた(かわもと ひなた) … 川本家の次女で中学2年生。明るく素直で、零にとって太陽のような存在です。第2巻ではひなたの初恋エピソードが大きな見どころとなりました。好きな男の子(高橋君)を家に招いて手料理でもてなそうと奮闘する姿や、零に「将棋を教えてほしい!」とお願いするシーンなど、少女らしい健気さと成長が描かれています。ひなたの笑顔と勇気は、零の閉ざされた世界に暖かな風を送り込む重要な役割を果たしており、本巻でも読者の心を和ませてくれます。
- 川本モモ(かわもと モモ) … 川本家の三女で幼稚園児。愛らしい笑顔と無邪気な言動で周囲を癒やすマスコット的存在です。モモはまだ幼いので物語の核心に直接関わることは少ないですが、第2巻でもお姉ちゃん達や零を慕って懐く姿が描かれています。将棋の駒を「にゃー(猫)」になぞらえた絵本で説明され大喜びするなど、モモちゃんの存在自体が作品のほのぼの要素。その無邪気さは、時にシリアスな展開の多い本作において貴重な癒しと笑いを提供してくれます。
- 二海堂晴信(にかいどう はるのぶ) … 零と同年代のプロ棋士。愛称「二海堂くん」。ぽっちゃり体型で病弱ですが情熱的な性格で、零にとって良きライバルであり親友でもあります。将棋好きが高じて零を一方的にライバル視し何かと世話を焼く彼は、ムードメーカー的存在です。第2巻では、ひなた達に将棋のルールを教えるため自作の可愛い猫の絵本を持参し、生真面目な零の説明にツッコミを入れながら場を盛り上げるなど、大活躍します。二海堂の明るさと優しさは零にとって大きな支えであり、読者から見ても「良い子すぎて眩しい!」と感じるほど。本巻でも彼の健気な友情に心打たれるシーンがあり必見です。
- 幸田香子(こうだ きょうこ) … 零の義姉(養父・幸田の実娘)で、零より4歳年上。美人だが気性が激しく奔放な性格で、作中では“毒舌美女”として強烈な存在感を放ちます。幼い頃から養父に才能を認められた零に嫉妬し反発してきた過去があり、二人の関係は複雑です。第2巻では久々に零の前に姿を現し、辛辣な言葉で零を翻弄します。その言動は一見残酷ですが、香子自身の孤独や葛藤も垣間見え、単なる「嫌な人」では済まされない奥深さがあります。既婚者であるプロ棋士・後藤との不倫関係に身を置いており、そのことも零に影を落とす原因となっています。香子の登場により物語の緊張感が一気に高まる第2巻、彼女はまさにストーリーをかき乱すトリックスター的存在です。
あらすじ
第2巻では、桐山零のプロ棋士2年目の奮闘と、新たな人間関係の広がりが描かれます。夏の終わり、零はシーズン中に初めての二連敗を喫し、将棋への情熱を見失いかけていました。高校に編入し直したもののクラスになじめず、「自分は何のために将棋を指しているのか」「なぜ高校に通っているのか」と孤独と思い悩む日々…。そんな停滞した気持ちの中、ある日街でばったり川本ひなたと出会います。ひなたに誘われる形で一緒にお茶をした零は、ひなたの素直な笑顔に少し心がほぐれるのを感じます。さらに偶然居合わせたひなたの同級生・高橋勇介君とも言葉を交わし、零は「また今度ゆっくり話そう」と自分から声をかけるのでした。零にとって同年代の友人ができるきっかけとなるこの出来事は、小さな一歩ですが大きな変化です。
後日、高橋君を含めて「みんなで晩ご飯を食べよう」ということになり、零は初めて川本家に他の友人を連れて訪れることになります。ひなたは大好きな高橋君をおもてなしするため大張り切り。姉のあかりからアドバイスをもらいながら、普段のカレーライスを特製トッピングでグレードアップした“からあげ&温泉卵のせカレー”を振る舞います。緊張でソワソワするひなたとカレー+唐揚げ+温泉卵というボリューム満点メニューに零も高橋君もびっくり! しかし高橋君には大好評で、ひなたは安堵し大成功を収めました。このエピソードは第1巻でのお弁当作りに続く“ひなたの手料理大作戦・第2弾”とも言えるエピソードで、読者にほっこりとした笑顔を届けてくれます。ひなたの恋する乙女っぷりに、零も読者も思わず応援したくなりました。
楽しい食事会の後、高橋君の提案で零の将棋対局の録画ビデオを皆で観ることになります。実は零は川本家のみんなに自分がプロ棋士であることをきちんと話していませんでしたが、テレビ画面に映る真剣に対局する零の姿を見て、ひなたもモモも「零くんってプロ棋士だったの!?」と驚きます。零としては秘密にしていたわけではないものの、あえて自分から言い出せなかったこともあり、少し気まずそう。しかし、ひなたは「すごい!かっこいい!」と尊敬の眼差しで零を見つめ、モモもキラキラした顔で喜んでくれました。この反応に零はホッとし、同時に自分のいる世界(将棋)に興味を持ってもらえたことが嬉しく感じられます。そしてひなたから「私にも将棋教えてくれる?」とお願いされ、零は張り切って将棋の入門書を手に取るのでした。
後日改めて、零は川本家でひなたとモモに将棋を教えることになります。そこへなぜか居合わせたのが零のライバル兼親友の二海堂晴信。零が教科書のように堅苦しい口調で将棋のルールを説明し始めると、二海堂は「ちょっと待った!固い固い!」とツッコミを入れ、自前の“猫のキャラクター”が登場する手作り絵本を取り出しました。二海堂くんお手製の絵本によるやさしい解説に、ひなたとモモは「わかりやすい!かわいい!」と大喜び。零も内心「くそっ…二海堂め。でもこの本、結構わかりやすいな…」と舌を巻くほどの出来栄えです。和やかな雰囲気の中、ひなたとモモは将棋の基本ルールをしっかり理解できた様子。二海堂のナイスフォローで零も助けられ、微笑ましい将棋教室となりました。こうして零は、川本家との交流を通じて少しずつ笑顔を取り戻していきます。
しかし物語はここで終わりません。零の内面に潜む暗い影が、再び彼の前に立ちはだかるのです――。ある夜、零の自宅マンションに幸田香子が突然訪ねてきました。義姉である香子は「今晩泊めて」と零に無理を言い、一度は断ろうとする零も結局押し切られてしまいます。香子は零の部屋で傍若無人に振る舞いながら、零へ絡みつくような言葉を投げかけました。それは愛情と憎しみが入り混じった複雑なもので、零は返す言葉もありません。彼女は零の顔の傷跡にそっと触れ、「良かった…傷、残らないですんで」と呟きます。実はその傷は過去に香子の恋人である後藤から零が殴られた時のもの。香子は心配しているようにも見えましたが、その瞳には嘲るような光も宿っています。香子と後藤の関係は今も続いており、零が「あの男(後藤)はやめた方がいい」と忠告しても、「アンタには関係ないわ」と一蹴。香子はなおも後藤への想いを口にし、零の心を乱すのでした。複雑な空気が漂うまま夜が更け、香子は零の部屋に泊まっていきます。翌朝、零がプロの対局に出かける時間になり、香子は部屋を出る間際に零へ意味深な言葉を残しました。「松永さん、負けたら引退するんですって…」――香子がささやいたのは、これから零が対局するベテラン棋士・松永正一六段(65歳)の身の上話でした。40年ものキャリアを持つ松永が降級すれば引退という状況だというのです。香子の言葉は零の胸に棘のように刺さり、不穏な思いを抱えたまま零は対局会場へ向かいます。
香子に動揺させられつつ挑んだ松永六段との公式戦。序盤から松永の老獪な戦術に翻弄され、零は非常に戦いづらさを感じます。対局中も香子の声が頭をよぎり、焦りから思うように実力が出せません。それでも必死にくらいついた零はなんとか勝利を収めますが、試合後の感想戦で松永が語った言葉にハッとさせられます。松永は静かにこう零に明かしました。「勝った時は叫び出すほど嬉しくて、負ければ内臓を泥靴で踏みにじられるように苦しい…」と。長年戦い続けてきた棋士だからこその実感がこもったその言葉に、零は息を呑みます。香子から聞かされていた「負けたら引退」という話は松永自身の口からは出ませんでした。むしろ松永六段は対局後、「まだ指し足りない。将棋を続ける」と微笑んだのです。勝負に生きる者の覚悟と情熱に触れ、零は改めて将棋と向き合う自分の心に問いかけます。「自分にとって将棋とは何だろう? ‘勝つ理由’がないまま戦ってきたけれど…。」松永との対局は、零に大きな示唆を与えたのでした。
12月も半ばを過ぎ、季節はクリスマス目前。零は再び香子と顔を合わせます。以前自分の部屋に泊めた際、香子が置き忘れた腕時計を返すためでした。待ち合わせた場所で腕時計を受け取った香子は、唐突にこんな話をします。「次のアンタの対局相手、安井さんって人…離婚するらしいわよ。小さな娘さんがいて、クリスマスまでは一緒にいたいって泣いて願ってるんだって。」零の今年最後の公式戦相手である安井六段の家庭事情を、香子はなぜか知っていました。そして零に向かって含みのある笑みを浮かべるのです。まるで「もしあなたがその人に勝ったら、娘さんとクリスマスを過ごせなくなるかもね」と揺さぶるかのように…。愛憎入り混じった香子の言葉に、零の中で何かが音を立てて崩れていきました。かつて自分が幸田家に入り才能を認められたことで、香子(実子)達がどれほど傷ついたか—零はその罪悪感にずっと苛まれてきました。香子の一言一言が、その罪悪感を刺激し容赦なく零を追い詰めます。動揺を隠せないまま、零は運命の対局日を迎えました。
年の瀬の対局、相手は香子の言っていた安井六段。序盤から零は平常心を欠いてしまいます。盤上に集中しようとするほど頭の中で香子の声が反響し、いつもの冷静さを発揮できません。対する安井も何か焦りを滲ませた様子で、ミスを重ねていきました。勝負は意外な速さで終局を迎え、零が勝利します。ホッとしたのも束の間、対局後に安井六段がポツリと漏らした「これで…クリスマスは一緒に過ごせるかな」という独り言に、零の心の糸がぷつんと切れてしまいます。零の中に溜まっていた感情がついに爆発し、彼は静かな対局室で獣のような咆哮をあげました――。それは悔しさなのか怒りなのか、自分でも抑えきれない激しい感情の噴出。プロの世界で戦う者としての覚悟、香子に対する怒り、そして孤独な自分自身への苛立ち…様々な想いが混ざり合い、零はただ涙を流します。第2巻のラストシーンは、そんな零のむき出しの感情で幕を閉じました。静かに佇む対局室に響いた零の魂の叫びは、読者の心にも深く突き刺さります。零という少年が抱えてきた痛みと孤独、その一端が垣間見えた瞬間でした。物語は新たな局面を迎え、続く第3巻へと期待が膨らむ終わり方と言えるでしょう。
感想
第2巻を読み終えてまず感じたのは、「本当に濃厚で心を揺さぶられる巻だった!」ということです。序盤のひなたの初恋エピソードでは、可愛らしさに思わず頬が緩みました。好きな人を家に招いて一生懸命おもてなしをするひなたちゃん…健気で応援せずにはいられません。カレーに唐揚げと温泉卵を乗せちゃう発想には思わずクスッと笑ってしまいましたが、それも彼女なりに必死に考えたメニューだと思うと愛おしいですよね。読んでいて、「頑張れ、ひなちゃん!」と心の中でエールを送ってしまうほど感情移入してしまいました。零と高橋君が和やかに話すシーンも微笑ましく、零にもやっと友達らしい存在ができたことが嬉しく感じられます。ひなたの明るさが零の暗い心に光を差し込んでいく様子は、読者にとっても救いでした。
一方で、中盤以降は一転してシリアスな展開が続き、物語にグッと引き込まれました。特に零と香子の再会シーンは張り詰めた空気感にドキドキ…。香子さんの毒のある台詞には正直「ひどい…」と憤りを覚えつつも、なぜか彼女を完全には嫌いになれない複雑な気持ちにさせられます。羽海野チカ先生の描く香子は、美しく妖しい存在感があり、ただの悪役ではない深みが感じられました。香子の登場によって、ほんわかしていた物語に一気に緊張感が生まれ、零の心情がより浮き彫りになったのが印象的です。零が香子に翻弄され苦しむ姿を見るのは切ないですが、その分「零、負けないで!」という気持ちが強く湧き上がり、物語にのめり込んでいきました。
そして何と言ってもクライマックスの零の感情の爆発シーン。ここが第2巻最大のハイライトでしょう。普段静かで達観しているようにも見える零が、内に溜め込んでいたものを一気に吐き出す姿に、胸を締め付けられる思いでした。ページをめくる手が止まらなくなり、零の叫びに思わずこちらも泣きそうに…。私自身、漫画を読んでいて登場人物に向かって「頑張れ!」と心の中で声援を送ったのは久しぶりです。それほど零というキャラクターの心情描写がリアルで、読者の心に響いてきた証拠だと思います。羽海野先生の筆致は本当に繊細で、零の震える手や涙を浮かべた目の描写から、彼の魂の叫びがダイレクトに伝わってきました。あのシーンでは思わずこちらも息を詰め、零と一緒に涙しながら読んでしまいました。第1巻では見られなかった零の生々しい感情が露わになり、「この物語はいよいよ核心に迫ってきたぞ」という期待で震えました。
また、第2巻全体を通して感じたのは、シリアスとほのぼののバランスの良さです。川本家との温かい団らんシーンでは存分に癒やされ笑わせてもらい、将棋の対局シーンや香子との絡みではハラハラさせられる。この緩急のつけ方が非常に巧みで、読者を飽きさせません。二海堂の存在も大きかったですね!真面目なシーンが続いたところに彼が登場すると、一気に空気が明るくなってホッとします。自作の将棋絵本には笑いましたが、同時に「なんていい奴なんだ…」と彼の友情にほろりときました。コミカルな場面でしっかり笑わせてくれるからこそ、シリアスな場面ではより一層感情移入してしまう。この巻は笑いと涙の振れ幅が大きく、エンタメ作品としても文句なしに楽しめました。
良かった点ばかり語ってしまいましたが、あえて気になった点を挙げるとすれば、物語の雰囲気がかなりシリアス寄りなので、人によっては「重い」と感じるかもしれない部分でしょうか。実際、香子が零に投げかける言葉はきつく、読んでいて胸が痛くなる場面もありました。また、全体的にゆったりと心理描写が続くので、アクションや派手な展開を求める人には進行がスローに映る可能性もあります。ただ、個人的にはこのじっくり丁寧な描写こそが『3月のライオン』の醍醐味だと思っています。派手さはなくとも、その分キャラクターの心の機微を深く感じ取れるので、読み終えた後の満足感が大きいのです。「重い」と感じたシーンも、最後まで読むとちゃんと救いが用意されていて、暗闇の中に光が差し込むようなカタルシスがありました。第2巻は特に零の内面にフォーカスした内容でしたが、そのぶん彼の成長物語としてグッと厚みが増したように思います。ページを閉じた後、零やひなた達のことが以前にも増して大好きになっている自分に気づきました。悲しさや苦しさも含めて、こんなにも心を揺さぶってくれる漫画は貴重だなと改めて感じた次第です。
考察・解説
第2巻では物語が大きく動き、いくつか興味深いテーマや伏線が浮かび上がってきました。ここからは内容を深掘りして、私なりに感じた考察や解説を述べてみたいと思います。
まず注目したいのは、幸田香子というキャラクターの存在意義です。香子は零にとってトラウマとも言える存在ですが、単なる意地悪なお姉さんではありません。その言動の裏には、香子自身が父・幸田に愛されなかったという寂しさや、自分の居場所を奪った零への複雑な愛憎が見え隠れします。香子が零に辛辣な言葉を浴びせるのは、一種の愛情の裏返しでもあるように感じられました。例えば零の傷跡を気にする場面、あれは本心では弟として零を案じているからこその発言ですよね。しかし素直になれない彼女は、つい零を突き放すような態度を取ってしまう…。香子自身もまた不器用で孤独な人物なのだと思います。第2巻時点では香子の真意は謎めいていますが、零と香子の関係は「姉弟でも他人でも割り切れない」微妙な距離感が描かれており、とても興味深いです。香子が零に執着するのは彼女なりの愛情なのか、それとも自分の居場所を奪った憎しみなのか。今後の展開でその辺りがどう描かれていくのか、考察が膨らみます。香子と後藤の関係も含め、幸田家の物語は本作の重要な軸の一つです。零が背負った罪悪感と香子達の抱える心の傷、この家族の物語が今後どう決着するのか注目せずにいられません。
次に、「将棋を指す意味」についてのテーマ性にも触れたいです。第2巻で印象的だった松永六段の言葉、「勝てば嬉しくて叫び、負ければ内臓を踏みにじられるように苦しい」という表現は、まさに勝負の世界の真髄を突いていました。このセリフはプロ棋士としての矜持を端的に語っています。零は「勝つ理由がない」と悩んでいましたが、それでも負ければ苦しいし悔しいという事実に向き合わされました。結局、人は理由がなくても何かに情熱を注いでしまうし、勝負に挑むからには勝てば嬉しく負ければ悔しい。それは理屈ではなく心が感じるままの真実なのだと、松永さんの言葉が教えてくれたように思います。零にとって将棋とは何なのか、まだ答えは出ていませんが、この対局を経て「負けて悔しいと思う自分」に気付けたことは大きな一歩でしょう。将棋への本当の情熱が零の中に芽生え始めたのではないでしょうか。プロ棋士として戦う以上、勝つことへの執着や負けた悔しさとどう向き合うかは避けて通れません。零が心の底に押し込めていた激情(最後の咆哮)は、彼もまた勝負師として熱いものを持っている証でした。このシーンは、零の成長と覚醒を予感させる非常に重要な場面であり、物語全体のテーマである「生きること・戦うこと」の象徴のようにも思えます。
また、タイトル『3月のライオン』の意味についても少し考えてみました。英語のことわざで「3月はライオンのようにやってきて、子羊のように去る(March comes in like a lion and goes out like a lamb)」という言葉がありますが、本作では”ライオン”は主人公・零を象徴しているように感じます。普段はおとなしく孤独な零くんですが、心の内にはライオンのような強さや激しさを秘めています。第2巻ラストで見せた“獣の咆哮”こそ、零の中のライオンが姿を現した瞬間だったのではないでしょうか。そして「3月」は春、新しい季節の始まりです。冬のように寒々とした零の人生に、川本家という春の暖かさが訪れた…そんな風にも解釈できます。まだ物語は序盤ですが、零が孤独なライオンから暖かな絆に包まれる存在へと変わっていく暗示なのかもしれません。タイトルに込められた意味を想像すると、今後の展開にも一層期待が高まりますね。
作品の演出面にも触れておきましょう。羽海野チカ先生の絵柄は柔らかく可愛らしいのに、要所で見せるコマ割りや構図のダイナミックさにはハッとさせられます。零が怒りを爆発させるシーンでは、背景に黒い影が渦巻き、まるで本物のライオンが雄叫びをあげているかのような迫力がありました。繊細な日常シーンとの対比で、こうした劇的なシーンがより映えるのも巧みです。また、第2巻の単行本には毎巻恒例のプロ棋士・先崎学九段による「将棋コラム」も収録されています。将棋の専門知識がなくても楽しめる作品ですが、実際の棋士が監修し解説を寄稿していることで、将棋ファンにも嬉しいリアリティが感じられます。物語中の対局で使われた戦法や盤面の裏話が読めたりするので、興味のある方はぜひコラムにも目を通してみてください。作品世界の厚みが増す仕掛けとして面白い試みですよね。
さらに、他メディア展開との比較も少し。『3月のライオン』は第2巻までの内容がTVアニメ第1シリーズ前半にも相当します。アニメ版をご覧になった方なら、零が感情を爆発させるクライマックスシーンでの映像と音楽の迫力に心震えたのではないでしょうか。例えば零が絶叫する瞬間、アニメでは画面いっぱいに荒れ狂う川のイメージやライオンの幻影が重なり、彼の心の嵐を視覚的に表現していました。声優陣の熱演も素晴らしく、零役の河西健吾さんの押し殺した声から迸る叫び、香子役の井上麻里奈さんの冷たい囁き声など、漫画を読んだときの想像以上に感情が伝わってきました。アニメ制作は新房昭之監督率いるシャフトということで、美しい映像表現や独特の間の取り方も印象的です。第2巻のエピソードでは、ひなたの料理シーンのカレーの湯気や、二海堂が絵本を朗読する場面のユーモラスな演出など、アニメならではの楽しさもありました。原作漫画で情景を想像し、アニメで実際に動く姿を見ると、感動が二倍になりますね。
実写映画版(前後編)と比較してみるのも興味深いです。映画『3月のライオン』では、第2巻相当の内容も描かれていますが、印象がずいぶん異なります。桐山零を演じた神木隆之介さんは繊細な雰囲気で原作そのままに零を体現していましたし、幸田香子役の有村架純さんは普段の清純なイメージを覆す妖艶さで香子の複雑なキャラクターを見事に演じていました。二海堂役の染谷将太さんもはまり役で、劇中で絵本を読み聞かせるシーンは微笑ましくて思わず笑ってしまいました(笑)。映画では映像ならではの迫力ある将棋シーンが楽しめます。たとえば松永との対局では、実際の対局場さながらの緊張感が映し出され、駒音や息遣いまでリアルに感じられました。漫画やアニメでは内面描写が多かった部分も、実写ならではの表情の機微で見せていて、新鮮な感動がありました。メディアごとに表現の違いはありますが、どの形で触れても作品の核にある感動は不変だと感じます。原作→アニメ→映画と見比べると、それぞれの良さを再確認できてファンとしては嬉しい限りです。
このように、第2巻は物語面でも演出面でも語りたいことが尽きないほど充実した内容でした。零の葛藤と成長、周囲の人々との絆、将棋の持つ深み…様々な要素が絡み合い、読む者の心を強く揺さぶります。単なる将棋漫画の枠を超えて「人生」や「家族」を描く本作ならではの醍醐味が存分に味わえる一冊でした。
読者の反応
第2巻に対する読者やファンの反応も熱いものがありました。SNSやレビューサイトの声を拾ってみると、共感の嵐とも言える盛り上がりようです。代表的なポジティブ・ネガティブ両面の意見をいくつかご紹介します。
ポジティブな反応
・ひなたの手料理シーンが「可愛すぎる!」と大好評。「健気で涙が出た」という声も多数。
・零が感情をあらわにするクライマックスに「号泣した」「鳥肌が立った」と感動のコメントが相次ぐ。
・「二海堂くんマジ良い奴!」とライバル兼親友の活躍に称賛の声。友情シーンにほっこりした人が多い。
・「川本家に癒やされる」との声。ほのぼのシーンとシリアス展開の緩急が「さすが羽海野作品、心地良い」という評価。
・「人物描写が繊細で共感しかない!」とストーリーの深みを称賛。「自分も零と一緒に泣いた」など感情移入する読者が続出。
ネガティブな反応
・「展開がゆっくりで地味に感じた」という意見。派手なバトル展開を期待すると物足りなく感じる人も。
・香子の言動が「キツすぎてイライラする」との声。一部読者には彼女のキャラクターがストレスに感じられた模様。
・「全体的に重苦しい雰囲気で落ち込んだ」という反応も。零の悩みや孤独描写がリアルすぎて、気分が沈んだという意見。
・将棋の専門用語やシーンについて「ルールがわからず戸惑った」という声。初心者には細かい部分で理解しづらい点もあったよう。
・「続きが気になるところで終わってモヤモヤした」という人も。第2巻の引きが強烈なため、次巻を待ちきれない焦燥感がネガティブに語られる場面も。
総じて、第2巻は非常に評判が良かったと言えるでしょう。特に零の感情描写やひなたのエピソードに対しては「泣けた」「胸が熱くなった」といったポジティブな反響が圧倒的でした。読者がキャラクターに深く感情移入し、まるで自分のことのように一喜一憂している様子がSNS上でも多く見受けられ、作品への愛の深さを感じます。一方で、物語の重厚さゆえに若干の戸惑いを覚えたという声もゼロではありませんでした。しかし、「重い」「しんどい」といった感想も裏を返せばそれだけ物語に引き込まれている証拠とも言えます。実際、「香子ムカつく!でも続きが気になる自分が悔しい(笑)」といったコメントもあり、賛否の意見さえも含め作品が大きな話題を呼んでいました。第2巻を経て物語への熱量がさらに高まった読者が多く、今後の展開への期待と不安を語り合う様子から、本作がファンにとって特別な存在であることが伺えます。
次回への期待
衝撃的な展開で幕を閉じた第2巻だけに、続く第3巻への期待も膨らむばかりです。零は今回、自分でも抑えられない本音を吐き出してしまいましたが、この経験が彼にどんな変化をもたらすのか注目です。将棋に対する迷いを抱えていた零が、松永との対局や感情の爆発を経て、少しでも前向きになれているといいな…と読者として願わずにいられません。次巻では、零がこの冬をどう乗り越え、新たな年を迎えるのかが描かれるでしょう。川本家との年末年始のエピソードがあれば、きっと心温まる場面になるはずで、ぜひ見てみたいところです。ひなたとの関係もさらに深まりそうですね。将棋の物語的には、新たなライバルや師匠的存在の登場にも期待しています。プロ棋士として一皮むけた零が、今後公式戦でどんな闘いを繰り広げるのかワクワクしますし、義姉・香子や彼女が想いを寄せる後藤との因縁も本格化していきそうです。香子が零に投げかけた数々の言葉の真意や、零自身の心の整理など、第3巻以降で明かされていく謎も多く控えています。例えば、香子と後藤の関係はこのままなのか、零は香子に対してどんな答えを出すのか、といった点も気になりますよね。さらに、第2巻で零は高橋という友人候補とも出会いましたから、学校での零の変化にも注目したいです。将棋中心の生活だった彼が学校生活にもうまく馴染めるようになるのか、新しく設立されるかもしれない将棋部の行方なども含めて見どころ満載でしょう。物語が進むにつれ、零を取り巻く人間関係も将棋界の戦いもスケールアップしていく予感があります。「零は次にどんな一手を指すのか?」――読者として次巻を手に取る日が待ち遠しく、期待が高まっています。第3巻でもきっと我々の予想を超えるドラマが待っていることでしょう。早く続きを読んで、零たちの行方を見届けたいですね!
関連グッズ紹介
『3月のライオン』の世界をもっと楽しみたい方へ、作品に関連するグッズや商品もいくつかご紹介します。お気に入りのシーンを振り返ったり、作品の余韻に浸りたいときにぜひチェックしてみてください♪
- コミックス(単行本)全巻 … 原作漫画は現在最新巻まで発売中(既刊17巻 ※2023年8月現在)。紙の本は美麗なカラーイラストや巻末おまけページも楽しめます。電子書籍でも手軽に読めるので、まずは第1巻からまとめ読みして零の物語を追体験してみては?
- TVアニメ『3月のライオン』Blu-ray/DVD … シャフト制作によるテレビアニメ第1シリーズ(全22話)・第2シリーズ(全22話)が発売中。羽海野チカ先生の世界観を鮮やかな映像と豪華声優陣の熱演で味わえます。特典映像やブックレットが付いたBlu-ray BOXもファン必携です。
- オリジナルサウンドトラック(OST) … アニメ版『3月のライオン』の劇伴音楽を収録したサントラCD。橋本由香利さんが手掛ける音楽は優しく切ないメロディが多く、作品の感動が蘇ると好評です。読書のお供BGMにすると、あの名場面が脳裏に浮かんでくるかも♪ 主題歌や挿入歌も名曲揃いなので要チェックです。
- 実写映画「3月のライオン 前編/後編」DVD/Blu-ray … 神木隆之介さん主演で映画化された実写版(2017年公開)の映像ソフト。零と香子の緊迫感あるやり取りや、川本家の温かな日常が俳優陣の名演でリアルに描かれています。将棋の対局シーンも迫力満点で見応え十分!映像特典としてメイキングやインタビューも収録され、ファンにはたまらない内容です。
- 公式ファンブック『3月のライオン おさらい読本 初級編』 … 作品世界をより深く楽しめるガイドブック。第5巻までのストーリー解説やキャラクター紹介、羽海野チカ先生と棋士・先崎学九段の対談、さらにグラビア企画など盛りだくさんの内容です。ファンなら思わずニヤリとしてしまう裏話や設定も明かされており、読み応え抜群!中級編・上級編と続刊も予定されているので、コレクションしてじっくり読み込みたい一冊です。
まとめ
『3月のライオン』第2巻は、笑いあり涙ありの展開で物語が大きく動いた重要な巻でした。零の抱えていた孤独や葛藤が表に現れ、川本家との絆もより深まって、読後には温かい余韻と今後への高揚感が残ります。個人的な評価を★で表すならば…「★★★★☆(4.5/5)」!それほど心を揺さぶられた神回と言えるでしょう。特にクライマックスの零の魂の叫びは圧巻で、一緒に涙した読者も多かったのではないでしょうか。第1巻に続き、第2巻でも羽海野チカ先生の巧みな物語運びとキャラクター描写に脱帽です。「勝つ理由がない」と語っていた零が、負ける悔しさに涙する姿には胸を打たれましたし、川本家の優しさに触れて少しずつ変わっていく様子には希望を感じました。まさに涙あり笑いありの名エピソードで、シリーズの中でも屈指の内容だったと思います。
物語はまだ始まったばかり。この先、零はどんな成長を遂げていくのか、彼を取り巻く人々との関係はどう紡がれていくのか、ますます目が離せません。将棋の対局も物語も、次の展開への布石がしっかり打たれた第2巻でした。今後の展開にも大注目ですし、引き続きこの作品を追いかけていきたいと思います。次回第3巻ではどんなドラマが待っているのか、今から楽しみですね!皆さんは第2巻を読んでどう感じましたか?ぜひ感想をコメントで教えてください。この記事が面白かったと思ったらSNS等でシェアしてもらえると嬉しいです📢✨ それでは、次回のレビュー記事でお会いしましょう!