高校の旧体育館で発生した密室殺人事件。その謎に挑むのは、学園に“棲みつく”アニメオタクの天才探偵――青崎有吾『体育館の殺人』は、第22回鮎川哲也賞を受賞したデビュー作にして、軽妙な会話と本格的な推理が楽しめる学園ミステリーです。放課後の静かな体育館が一転して事件現場になる導入から読者を惹きつけ、コミカルなやり取りの裏で綿密なロジックが展開されていきます。本記事ではネタバレを極力避けつつ、著者や登場人物、あらすじ、そして深読みの考察まで多角的に本作の魅力を紹介します。ミステリ好きの方も普段あまり推理小説を読まない方も、本格ミステリの新たな傑作を一緒に覗いてみましょう。
Contents
著者紹介:青崎有吾さんとは
著者の青崎有吾(あおさき ゆうご)さんは1991年生まれ、神奈川県出身のミステリー作家です。神奈川県立希望ヶ丘高校、明治大学文学部を卒業し、在学中はミステリ研究会に所属していました。大学在学中にライトノベル系の新人賞に応募するも落選した経緯があり、「ライトノベルではなくミステリのほうが向いている」という評価を受けて方向転換。その後「いつか挑戦したい」と思っていた東京創元社主催の鮎川哲也賞に初応募し、本作『体育館の殺人』で見事受賞・デビューを果たしました。デビュー当時わずか20歳そこそこという若さでありながら、卓抜したロジックと構成力が高く評価され、「平成のエラリー・クイーン」と称されることもあります。
デビュー後も青崎さんは次々と話題作を発表しています。代表的なシリーズに、本作を第一作とする裏染天馬シリーズ(本格ミステリ〈館〉シリーズ)があります。また、怪奇×探偵の『アンデッドガール・マーダーファルス』(漫画化・アニメ化)や、切れ味鋭い連作短編集『早朝始発の殺風景』(実写ドラマ化)など多彩な作品を執筆。近年ではダブル探偵が活躍する『ノッキンオン・ロックドドア』シリーズがテレビ朝日でドラマ化されるなど、メディアミックスも活発です。さらにドラマ化・映画化された「ネメシス」シリーズの原作小説も手掛けるなど、精力的に活躍しています。青崎有吾さんは若手ながらミステリー界の新旗手として注目されており、その作風は「巧みな謎解きのロジック」と「個性的で魅力的なキャラクター」が大きな特徴となっています。本作『体育館の殺人』でも、その持ち味が存分に発揮されています。
鮎川哲也賞とは
鮎川哲也賞(あゆかわてつやしょう)は、東京創元社が主催する公募の新人文学賞。「創意と情熱溢れる鮮烈な推理長編」を募集する。
1988年、東京創元社が全13巻の書き下ろし推理小説シリーズ「鮎川哲也と十三の謎」を刊行する際、その最終巻を「十三番目の椅子」として一般公募した。翌年、その企画を発展する形で鮎川哲也賞が創設された。正賞はコナン・ドイル像、賞金は印税全額。受賞作は毎年10月前後に東京創元社より刊行される。
贈呈式は毎年、飯田橋にあるホテルメトロポリタンエドモント〈悠久の間〉にて、ミステリーズ!新人賞と合同で行われる。
引用元:Wikipediaより
登場人物紹介
裏染 天馬(うらぞめ てんま) – 本作の探偵役。風ヶ丘高校に“住み着いている”という噂の男子高校生で、頭脳明晰な天才ですが人間的にはだらしなく、根っからのアニメオタク。常に校内の部室棟に寝泊まりし、好きなアニメグッズや漫画に囲まれて気ままに生活しています。自他ともに認める「ダメ人間」ではあるものの、観察力・推理力はずば抜けており、ひとたび事件となれば鋭い論理で周囲を唸らせる名探偵ぶりを発揮します。その飄々とした言動と型破りなキャラクターは、本作最大の魅力と言えるでしょう。
袴田 柚乃(はかまだ ゆの) – 本作の語り手的ポジションで、裏染天馬の相棒役となる女子生徒。風ヶ丘高校卓球部に所属する一年生で、明るく正義感の強い女の子です。尊敬する卓球部の先輩が殺人事件の嫌疑をかけられてしまったことから、彼女は先輩の無実を信じて“学内一の天才”と噂される裏染天馬に助けを求めます。天馬のいい加減でマイペースな振る舞いに振り回されつつも、持ち前の行動力と真っ直ぐさで事件解決に奔走する健気なヒロインです。なお柚乃は探偵役・天馬の推理を引き立てるワトソン役でもあり、読者は彼女の視点を通じて物語を追うことになります。
卓球部の部長(先輩) – 柚乃の卓球部の先輩で、風ヶ丘高校女子卓球部の部長を務める3年生。放課後の旧体育館で発生した事件現場に居合わせた「唯一の人物」とされ、警察から疑いをかけられてしまいます。真面目で面倒見の良い先輩であり、柚乃にとって大切な憧れの存在です。果たして彼女は本当に犯人なのでしょうか? 柚乃は先輩の潔白を証明すべく奔走します。
風ヶ丘高校の関係者たち – その他にも、被害者となった放送部部長の男子生徒や、事件を捜査する警察関係者、風ヶ丘高校の新聞部員たちなどが登場します。生徒たちはそれぞれ部活動に打ち込むごく普通の高校生ですが、殺人事件という非日常に巻き込まれ動揺を隠せません。物語が進むにつれ、そうした登場人物たちの証言やエピソードが謎解きのヒントとなっていきます。個性的なキャラクター同士の掛け合いも本作の見所で、特に裏染天馬と周囲の人々との軽妙なやり取りは読んでいてクスリとさせられる場面も多いです。
あらすじ
雨が激しく降るある日の放課後、風ヶ丘高校の旧体育館で事件は起こります。校内放送部の部長を務める男子生徒が、舞台袖付近で何者かに刺殺されているのが発見されました。殺害推定時刻、校舎では既に授業が終わり下校時間帯でしたが、雨のため多くの生徒は校内に足止めされていました。旧体育館はそのとき扉が内側から施錠された密室状態であり、現場に居たのは偶然体育館に用事があった卓球部部長の先輩ただ一人…。警察は「密室内に犯人は一人だけ」という状況証拠から、彼女を有力な容疑者とみなします。
しかし、卓球部員の一年生袴田柚乃は先輩の人柄を知るがゆえに疑いを受け入れられません。先輩の無実を信じる柚乃は、かねてより「学内一の頭脳を持つ奇人」と噂される裏染天馬に真相解明の協力を依頼します。天馬は一見するとただの怠惰なオタク男子ですが、その推理力は本物。彼は事件現場に残された数々の手掛かりに目を光らせ、持ち前の知識と論理的思考で密室殺人のトリックに挑んでいきます。
捜査が進むにつれ、被害者の交友関係や当日の動向、そして現場の状況から次第に事件の全貌が浮かび上がってきます。物語の中盤では探偵役の裏染天馬による「読者への挑戦状」も挿入され、集められた証拠と証言から犯人を当てることができるか、読者にも考える時間が与えられます。果たして天馬が導き出す驚くべき真相とは? そして無実を信じる柚乃の想いは報われるのか? クライマックスではすべてのピースが論理的に繋がり、「なるほど!」と膝を打つ解決編が待っています。デビュー作ながら練り上げられた巧妙なトリックと鮮やかな推理が光る結末は、本格ミステリファンも満足できることでしょう(もちろん詳細は実際に読んでのお楽しみです)。
感想
まず、本作を手に取ったきっかけからお話ししましょう。私は普段からミステリー小説が好きで、本屋で見かけた『体育館の殺人』のタイトルに惹かれました。高校の体育館で殺人事件?というインパクトのある設定に興味をそそられ、さらに帯に「平成のエラリー・クイーン登場!」といった文句があり「これは面白そうだ」と直感したのです。読み始めると、期待に違わぬ面白さで一気に引き込まれました。
登場人物のキャラ立ちの良さが印象的です。特に探偵役の裏染天馬!頭脳明晰で論理展開は冴え渡るのに、人間性は残念というギャップが最高でした。天馬の飄々とした言動に思わずツッコミを入れたくなるコミカルな場面も多く、シリアスな殺人事件の合間にクスッと笑える箸休め的なやり取りがあるおかげで、重い題材でも最後まで飽きずに読み進められます。こんな異色の名探偵キャラは他にいないのではないでしょうか。もし天馬のキャラが凡庸だったら、正直シリーズの続刊まで読もうと思わなかったかもしれません(笑)。それほど裏染天馬という探偵は強烈で魅力的でした。
一方で、ミステリ部分の完成度にも舌を巻きました。文章は平易でテンポよく読みやすいライトな文体ですが、その中で展開される推理は本格そのもの。現場に残された手掛かりを丹念に拾い上げ、伏線を回収しながら理詰めで犯人像を絞り込んでいく展開は、「探偵小説の王道」を行くものです。解決編では「そう来たか!」と感心せずにはいられないロジカルな真相が提示され、デビュー作とは思えない完成度でした。私も解決編を読む前に自分なりに推理に挑戦してみたのですが、見事に完敗…。完全に作者の掌の上で踊らされてしまいました。しかし、ヒントは確かに作中に散りばめられており、公平な形で読者に情報が与えられていることも分かります。読者への挑戦状が用意されている点からも、著者がいかに本格ミステリの伝統を意識しているかが伝わってきました。
また、本作は「読みやすい本格ミステリ」として非常にバランスが良いと感じました。推理小説というと難解なイメージを持つ人もいるかもしれませんが、この作品はキャラクター描写や学園という舞台設定がライトノベル的で親しみやすく、普段ミステリを手に取らない層にもスッと物語が入ってきます。実際、私の周囲でも「普段は推理小説を読まないけどこれは面白かった」という声がありました。文章が軽快なのでサクサク読めますし、高校という日常的な舞台のおかげで情景もイメージしやすいです。その一方で、密室トリックや論理の組み立ては本格好きもうなる本格派。ライトさと本格らしさが高い次元で両立している点が、本作の大きな魅力だと思います。
タイトルに「体育館」「水族館」「図書館」など毎回「○○館の殺人」と付くシリーズと聞いて、最初は綾辻行人さんの有名な〈館シリーズ〉(『十角館の殺人』など)を連想しました。しかし実際読んでみると、雰囲気も作風も綾辻さんの館シリーズとは全くの別物です。綾辻館シリーズが不気味な密室館で次々と起こる連続殺人劇だとすれば、青崎さんの裏染天馬シリーズは学園を舞台にした明るくポップな青春ミステリといった趣があります。どちらも“館”という言葉こそ共通しますが、中身のテイストは大きく異なります。私は偶然どちらのシリーズも大好きなのですが、本作の場合は学園青春小説のノリと本格謎解きがミックスされた新感覚のミステリとして楽しめました。
最後に個人的な感想を付け加えると、デビュー作でここまでの完成度を示した青崎有吾さんに今後ますます期待が高まりました。「地元出身の若手作家だから応援しよう」と軽い気持ちで手に取った一冊でしたが、読み終えた時にはすっかり裏染天馬シリーズのファンになってしまいました。続編もすぐに読みたくなりますし、青崎さんの他の作品ももっと追いかけてみたいと思わせてくれる力がこの作品にはあります。ミステリ好きにはもちろん、キャラクター重視の物語が好きな方やオタク趣味の主人公に抵抗がない方にもぜひおすすめしたい逸品です!
考察・解説
ここからは、本作をより深く味わいたい方向けに考察と解説を述べてみます。物語の核心的なネタバレは避けますのでご安心ください。
本格ミステリ×ライトノベルの融合
『体育館の殺人』最大の特徴は、本格ミステリの論理性とライトノベル的なキャラクター・舞台設定の見事な融合にあります。著者の青崎有吾さん自身、デビュー前に「ラノベではなくミステリの方がいい」と助言された経験を持つ通り、物語にはライトノベルのポップさとミステリーのロジックが同居しています。例えば、裏染天馬という探偵像は従来の名探偵の系譜に連なりつつも、「アニメオタクでダメ人間な高校生」というラノベ的なひねりが加えられています。これは従来の名探偵像のパロディでもあり、新世代の読者へのアピールでもあるでしょう。実際、作中では天馬が要所要所で大好きなアニメの名台詞を引用したりしており、同世代のオタク趣味を持つ読者にはクスリと笑えるサービス精神が感じられます。一方で事件の構図自体は「密室殺人」「読者への挑戦」といった古典的本格ミステリの王道を踏襲しています。このように古典と現代ポップカルチャーのハイブリッドが、本作をユニークかつ新鮮なものにしているのです。
近年のミステリ界では高年齢化が話題に上ることがありますが、本作のようにライトノベル的文体やキャラ設定を取り入れることで若い読者層にもアプローチできている点は注目に値します。実際、『体育館の殺人』は「中高生にも読みやすいミステリ」として評判になりました。これはミステリの間口を広げる試みとも言え、青崎有吾さんの狙いは成功しているように思います。ただ一方で、一部には「キャラが漫画的すぎてリアリティに欠ける」「高校生が勝手に捜査する展開は非現実的だ」といった否定的な意見もあります。確かに、警察そっちのけで高校生たちが事件を解決に導く筋立ては現実的ではありません。しかし、そもそも本格ミステリというジャンル自体が現実性よりも論理ゲームとしての面白さを重視する傾向があります。ホームズやエルキュール・ポアロのような古典の名探偵たちだって、現実に考えればかなり突飛な存在です。本作もそれと同じで、「学園ミステリ」というフィクションの枠組みにおいては高校生探偵の活躍も十分に許容範囲でしょう。むしろ若さゆえのバイタリティや大人への反発心が事件解決の原動力になっている点が青春小説的であり、単なるお約束として片付けるには惜しい魅力があります。柚乃が大人たち(警察)の決め付けに反発して奔走する姿は、痛快で爽やかな余韻を残しました。
“平成のエラリー・クイーン”の所以
本作は宣伝文句などでも「平成のエラリー・クイーン」と称されていますが、これは一体何を意味しているのでしょうか。エラリー・クイーンとは1920~30年代に活躍したアメリカの本格推理作家(およびその作品に登場する名探偵)であり、綿密な論理とフェアな伏線、そして物語中盤で提示される読者への挑戦で知られています。本作『体育館の殺人』も、まさにそのエラリー・クイーン的スタイルを現代日本の高校を舞台に再現したかのような作品なのです。物語の途中で「○○の段階で読者への挑戦状が提示される」という趣向や、最後に探偵役が全員の前で推理を披露し真相を暴くクライマックスは、黄金時代の本格推理小説へのオマージュと言えるでしょう。
青崎有吾さんが幼少期からどの程度エラリー・クイーン作品に親しんでいたかは定かではありませんが(ご本人は海外ミステリも読むようです)、少なくとも論理で読者を驚かせたいという強い意志が感じられます。たとえば、本作のトリックは「密室状況のからくり」を主軸に据えていますが、その仕掛けはシンプルながら盲点を突くもので、解説されると「そうか、その手があったか!」と感心させられました。些細に思えた描写が後に大きな意味を持って浮かび上がる構成力も見事です。チャレンジ精神旺盛な読者なら、与えられた手掛かりから推理合戦に挑む楽しみが味わえるでしょうし、素直に物語を追った読者も終盤で種明かしを聞いて膝を打つはずです。こうしたフェアプレイ精神とロジックの妙こそ、「平成のクイーン」と呼ばれる所以でしょう。
他作品との比較・位置付け
『体育館の殺人』を語る上で、同時代の他の作品との比較も興味深いです。一つの流れとして、本作は「新本格第3世代」的な作品だと捉えられます。島田荘司や綾辻行人といった先人の新本格ミステリが1980~90年代にブームを起こしましたが、青崎有吾さんは平成生まれでまさにそれらを読んで育った世代と言えます。そうした影響の下、本作は古典的フーダニット(誰が犯人か)とハウダニット(どうやって密室を実現したか)の両方に挑戦しつつ、物語の雰囲気は現代的でカジュアルに仕上げている点が特徴です。同世代の作者による類似の試みとしては、例えば円居挽さんの『ルヴォワール』シリーズや、西尾維新さんの『戯言シリーズ』(特に『クビキリサイクル』)などが思い浮かびます。これらもアニメ的なキャラクターや語り口でありながら、本格謎解きを盛り込んだ作品です。本作はそうしたライトミステリの系譜の中に位置づけられるでしょう。
また、日本の学園ミステリという点では、有栖川有栖さんの学生アリスシリーズ(英都大学を舞台に推理研が活躍する青春ミステリ)や、漫画・アニメで言えば天樹征丸原作の『金田一少年の事件簿』も比較対象として挙げられます。『金田一少年』も高校生探偵が難事件を解決する人気シリーズですが、こちらはホラー色の強いシリアス路線です。一方『体育館の殺人』は殺人事件を扱いながらもグロテスクさは控えめで、全体的に明るいトーンが貫かれています。言わば「名探偵コナン」や「金田一少年」よりもライトでコミカル、しかし推理のキレは本格派といった独自のポジションにあるでしょう。最近では本シリーズの後発で『古典部シリーズ(氷菓)』や『〈小市民〉シリーズ』(米澤穂信)など日常の謎系学園ミステリが人気ですが、そちらは殺人事件を扱わないソフトな謎解きです。本作は日常の延長に本格殺人事件が起こるという点で、学園青春ミステリと本格ミステリの橋渡し的な存在と言えます。
さらに、青崎有吾さん自身の他作品との比較では、裏染天馬シリーズと並ぶ代表作である『ノッキンオン・ロックドドア』シリーズも興味深いです。『ノッキンオン・ロックドドア』は探偵コンビが不可解な事件を解決する連作で、映像化もされました。この作品では裏染天馬シリーズほどキャラクターのラノベ色は強くなく、謎解きのロジックにより一層振り切った印象があります。つまり青崎さんは作品ごとにテイストを変えつつも、一貫して「論理で驚かせる」ことを追求している作家だと言えます。そう考えると、デビュー作『体育館の殺人』で見られたライトな文体と本格トリックの両立は、読者の裾野を広げる戦略でありつつ、作家としてのポリシー(本格であること)も妥協していない絶妙なバランスだったのではないでしょうか。青崎作品を読み慣れている方にとっても、本作は作者の原点として興味深く読めるはずです。
読者の反応
実際に『体育館の殺人』を読んだ人々の感想は賛否両論ありますが、総じて高評価が目立ちます。ここでは主な良い評価と悪い評価の声を整理してみましょう。
キャラクターや読みやすさ、王道の推理要素を評価する声が多く挙がる一方で、リアリティや動機の弱さを指摘する声も一部に見られました。ただし、低評価の多くは「期待しすぎた」「自分の好みと合わなかった」というもので、作品そのものの質が低いという意見は少数派です。むしろデビュー作としては驚くほど完成度が高く、「本格ミステリ入門にもピッタリ」との評価もあります。読者の反応を見る限り、本作は新本格ミステリの新たな入口として多くのファンを獲得している印象です。
ポジティブな反応(称賛) 🟢
- 「密室殺人、理路整然と展開される推理、伏線回収、読者への挑戦…王道の本格ミステリとして存分に楽しめた!」
- 「読者が推理しやすいよう情報が提示されており、自分も探偵になった気分で推理を楽しめる。フェアプレイ精神が嬉しい。」
- 「登場人物たちのキャラクターがそれぞれ個性豊かで面白い。中でも天才アニオタの探偵という設定が斬新でとても気に入った。」
- 「作者と世代が近いせいか趣味が合うのか、要所要所に挟まれるアニメのシーン引用ネタがツボにハマって笑った。」
- 「学園ものライトノベルに近いノリのおかげで世界観にすぐ入り込め、気軽に読み進めることができた。文章も平易でサクサク読める。」
- 「デビュー作でこれだけのクオリティを出せているのは凄い。今後の作品も期待大!」
ネガティブな反応(批評) 🔴
- 「殺人事件が起きているのに高校生が好き勝手捜査しているのは非現実的で、緊迫感に欠けると感じた。」
- 「主人公のキャラ設定がライトノベルのテンプレすぎて馴染めなかった。随所のオタクネタもノイズに感じる。」
- 「登場人物が多い割に一人ひとりの掘り下げが浅く、誰にも感情移入できないまま終わってしまった。」
- 「肝心の殺人の動機が弱く感じた。また犯行後の段取りが犯人にとって都合良く行きすぎでは?と引っ掛かった。」
- 「話題作と聞いて期待しすぎたせいか、自分には中高生向けの軽いミステリに思えた。重厚な作品ではない。」
- 「トリックや動機が今ひとつ。ミステリ慣れした自分には物足りなかった。」
次回への期待
『体育館の殺人』は本格ミステリ好きのハートをがっちり掴む爽快な一作でしたが、物語はこれで終わりではありません。幸いなことに、本作はシリーズものとして続編が用意されています。裏染天馬&袴田柚乃コンビの活躍は、今後どのような展開を見せていくのでしょうか。
既に刊行されている続編としては、『水族館の殺人』(シリーズ第2作)、『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』(番外編的な日常の謎短編集)、『図書館の殺人』(シリーズ最新作)などがあります。『水族館の殺人』では夏休みの水族館を舞台に、なんと11人全員にアリバイがある殺人事件に天馬たちが挑みます。密室トリックがテーマだった『体育館』に対し、『水族館』ではアリバイ崩しがテーマとなっており、さらにスケールアップした論理戦が展開されるようです。実際に読んでみると、容疑者全員に鉄壁のアリバイがある中でどう犯人を炙り出すのかという地味ながら奥深い謎に、天馬がこれまた鮮やかな推理を見せてくれました。舞台が学校の外(市内の水族館)に広がり、新たなキャラクターも登場するなど、シリーズとしての拡がりも楽しめます。
続く短編集『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』では、殺人のような大事件ではなく日常生活での不思議な出来事に天馬たちが挑みます。例えば「学園祭の出店でお釣りに必ず50円玉が混ざるのはなぜか?」といったユニークな小謎が収録されており、裏染天馬シリーズの世界観を補完するとともにキャラクターの掘り下げがなされています。柚乃の他に天馬の妹も登場し、天馬ファミリーの一端が見えるのもファンには嬉しいポイントです。
そして『図書館の殺人』では再び殺人事件に立ち向かいます。タイトルの通り図書館で事件が起こり、天馬たちが真相解明に挑むという展開です。こちらも密室要素や論理パズルが盛り込まれており、シリーズの集大成的な面白さがあります。青崎先生いわくこのシリーズはここで一旦完結とのことですが、ファンとしてはぜひ今後も“館シリーズ”を書き続けてほしいところです。もし新作が出るなら、今度はどんな「○○館」でどんな難事件が待ち受けているのか…想像するだけでワクワクします。
また、シリーズの映像化にも期待が高まります。昨今、高校生探偵もののドラマやアニメも人気ですし(実際に青崎さん原作の『ノッキンオン・ロックドドア』はドラマ化しました)、裏染天馬シリーズもメディア展開されたら面白そうだと思いませんか? アニメオタクの名探偵というキャッチーな設定は映像映えしそうですし、学園を舞台にした密室事件というフックも十分。ぜひいつか実写ドラマやアニメで天馬&柚乃コンビに会える日を楽しみにしています。それまでは原作小説で存分に彼らの活躍を堪能しつつ、次なる展開を気長に待ちたいと思います。
関連グッズ・作品紹介
最後に、『体育館の殺人』および本作に関連する作品・グッズについて紹介します。気に入った方はぜひこちらもチェックしてみてください。
- 原作小説『体育館の殺人』(東京創元社) – 単行本は2012年に刊行、現在は創元推理文庫版(2015年発売)で入手可能です。電子書籍(KindleやBook☆Walkerなど)でも購入できます。文庫版ではハードカバー版から大幅な加筆修正が加えられており、より洗練されたロジックが楽しめるので初めて読む方には文庫版がおすすめです。価格は税込み858円程度で、楽天ブックスやAmazonなど各種オンライン書店で購入できます。
- 裏染天馬シリーズ既刊 – 続編小説として、第二作『水族館の殺人』、短編集『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』、第三作『図書館の殺人』(以上すべて創元推理文庫)が発売中です。シリーズを通して読むことで、裏染天馬や柚乃といったキャラクターの成長や関係性の変化もより深く楽しめます。各作品ごとに異なるタイプのトリックが用意されているので、飽きることなく推理のバリエーションを味わえるでしょう。
- オーディオブック版 – 『体育館の殺人』はオーディオブック化もされています。Audible(Amazon)版やkikubon版などがあり、プロのナレーター浅井晴美さんによる朗読で物語を耳から楽しむことができます。総朗読時間は約10時間とボリュームたっぷりですが、通勤通学の合間や就寝前に少しずつ聴けば、また違った臨場感で作品世界に浸れるはずです。人物ごとに声色を変える演じ分けも臨場感があって面白いですよ。
- コミカライズ版 – 2025年には本作の漫画版『体育館の殺人 1 裏染天馬の名推理』が発売されました。漫画担当は名鳥輪(あとり りん)さん、原作:青崎有吾さんで、KADOKAWAのコミック誌「アライブ+」にて連載(単行本第1巻発売中)です。コミカライズでは天馬や柚乃たちキャラクターがビジュアルで描かれており、体育館の密室トリックの様子も絵で見るとまた新鮮な発見があります。小説版を読んだ方も、漫画ならではの表現で楽しめるでしょう。特に天馬の飄々とした様子や、シリアスな場面とギャグシーンの緩急がどのように描かれているか注目です。
- 関連グッズ – 東京創元社のオンラインショップでは、裏染天馬シリーズの美麗なカバーイラスト(田中寛崇氏作)を使用したクリアファイルセットなども販売されています。イラストレーター田中寛崇さんによる表紙絵は、雨の中赤い傘を差した女子生徒が佇む印象的なデザインで、本作の雰囲気を象徴しています。こうしたグッズはファンにはたまらないアイテムでしょう。その他、シリーズ関連ではありませんが青崎有吾さん原作のドラマBlu-ray/DVDや、アニメ『アンデッドガール・マーダーファルス』の映像ソフトなども発売されていますので、興味があればチェックしてみてください。
まとめ
以上、青崎有吾さんのデビュー作『体育館の殺人』について、あらすじから考察までたっぷりと紹介してきました。第22回鮎川哲也賞を受賞した本作は、作者が当時20代前半とは思えないほど完成度の高い青春本格ミステリでした。アニメオタクの名探偵・裏染天馬という異色のキャラクターと、密室殺人という王道の謎が組み合わさった物語は、ライトなノリとシリアスな推理のバランスが絶妙で、一度読み始めたら止まらなくなる面白さがあります。
コミカルな会話劇に油断していると、いつの間にか周到に張り巡らされた伏線に絡め取られて驚きの真相に導かれる――そんなミステリの醍醐味を存分に味わわせてくれる一冊でした。読後には爽快感すら覚える論理の妙と、「このキャラまた見たい!」と思わせる愛すべき登場人物たちの活躍に、きっとあなたも魅了されることでしょう。
「本格ミステリは興味あるけど難しそう…」と感じている方にも、『体育館の殺人』はぜひ手に取ってみてほしい作品です。きっと従来のイメージが良い意味で覆るはず。逆にヘヴィなミステリ読みの方も、肩肘張らずリラックスして読めるのにしっかり“本格”している本作に感心すること請け合いです。
青崎有吾さんの描く新世代の名探偵譚、まずはこの『体育館の殺人』から始めてみませんか? そして気に入ったならば、シリーズの続きを読んだり他の作品に手を伸ばしたりして、ミステリの世界をどんどん広げてください。本格ミステリの面白さを再確認できると同時に、新鮮な驚きを与えてくれる本作は、多くの人に自信を持っておすすめできる一冊です。ぜひあなたも裏染天馬の名推理に挑戦してみてくださいね!