今回この記事では、第22回鮎川哲也賞の受賞作『体育館の殺人』について、感想・書評を中心に紹介します。
著者の青崎有吾さんはこの作品でデビューをされており、この作品の他に、漫画化、アニメ化された『アンデッドガール・マーダーファルス』や、ドラマ化された『早朝始発の殺風景』も執筆されています。映画『映画 ネメシス 黄金螺旋の謎』にもなっているネメシスシリーズの本も執筆されています。
テンポよく読めて、登場人物同士の軽快なやりとりを楽しめる本格ミステリ作品ですので、是非皆さんにもおすすめしたい作品です。
Contents
【プロフィール】著者:青崎有吾(あおさきゆうご)さんについて
今回紹介する『体育館の殺人』の著者である青崎有吾さんは、1991年神奈川県横浜市生まれで、神奈川県立希望ヶ丘高校、明治大学文学部を卒業されています。大学在学中はミステリ研究会に所属しています。
大学在学中に2作品ほどライトノベル関係の賞に応募するも落選し、「ライトノベルではなくて、ミステリのほうがいい」と評価され、いつかは応募したいと思っていた鮎川哲也賞に初めて応募し、見事に受賞されています。
平成のクイーンと呼ばれる見事なロジックと、魅力的なキャラクターが特徴的で、新時代本格ミステリ作家として注目されています。
今回紹介する『体育館の殺人』は裏染天馬シリーズとも呼ばれ、他にも作品が出版されており、それも含め以下の作品を執筆されています。
- 水族館の殺人 (裏染天馬シリーズ)
- 図書館の殺人 (裏染天馬シリーズ)
- 風ヶ丘五十円玉祭りの謎 (裏染天馬シリーズ)
- 早朝始発の殺風景
- 11文字の檻
- アンデッドガール・マーダーファルス
- ノッキンオン・ロックドドア
どの作品もミステリー作品となっており、本格的な謎解きの裏染天馬シリーズや、鬼、狼男、ルパンやホームズといった様々なキャラクターが登場する『アンデッドガール・マーダーファルス』シリーズなど面白い作品を手掛けています。
全作品に言えるのは、登場人物のキャラクターがきちんと設定されており、登場人物同士の軽快なやりとりが楽しめ、非常に読みやすいミステリー要素のある作品となっていることです。
Twitterもやられているので、興味のある方はフォローしてみてください。
鮎川哲也賞とは
鮎川哲也賞(あゆかわてつやしょう)は、東京創元社が主催する公募の新人文学賞。「創意と情熱溢れる鮮烈な推理長編」を募集する。
1988年、東京創元社が全13巻の書き下ろし推理小説シリーズ「鮎川哲也と十三の謎」を刊行する際、その最終巻を「十三番目の椅子」として一般公募した。翌年、その企画を発展する形で鮎川哲也賞が創設された。正賞はコナン・ドイル像、賞金は印税全額。受賞作は毎年10月前後に東京創元社より刊行される。
贈呈式は毎年、飯田橋にあるホテルメトロポリタンエドモント〈悠久の間〉にて、ミステリーズ!新人賞と合同で行われる。
引用元:Wikipediaより
【登場人物、あらすじ】『体育館の殺人』について
風ヶ丘高校の旧体育館で、放課後、放送部の少年が刺殺された。密室状態の体育館にいた唯一の人物、女子卓球部部長の犯行だと警察は決めてかかる。卓球部員・柚野は、部長を救うために、学内一の天才と呼ばれている裏染天馬に真相の解明を頼んだ。アニメオタクの駄目人間にー。”平成のエラリー・クイーン”が、大幅改稿で読者に贈る、第22回鮎川哲也賞受賞作。待望の文庫化。
引用元:創元推理文庫『体育館の殺人』裏表紙より
「裏染天馬シリーズ」と呼ばれる作品群の第一作となるこの作品では、風ヶ丘高校の旧体育館で密室状態で発生した殺人事件が発生したところから始まります。
容疑者対象は放課後ということもあり全校生徒ですが、犯行可能な数人に警察が容疑者を絞り込みます。
その中の尊敬する先輩の無実を証明する為に、主人公の一人である卓球部員の袴田 柚乃(はかまだ ゆの)が依頼し、学校に住みついているアニメオタクのダメ人間である裏染 天馬(うらぞめ てんま)を探偵役として事件解決に向かいます。
探偵役の裏染天馬はダメ人間ではあるものの、学業優秀で頭の回転や観察力がずば抜けており、現場や各所に残された証拠をもとに一つずつロジカルに推理して、犯人、動機やトリックを見事に推理していきます。
私はまだ読んだことがないのですが、海外ミステリ作品が好きな方は知っているであろうエラリー・クイーン氏の作品を彷彿させる作品となっているようで、著者の青崎有吾さんは「平成のエラリー・クイーン」と呼ばれています。
導入部からダメ人間の探偵役である裏染天馬が登場するところまでを読んで、読みやすい軽いミステリ作品かなと思いましたが、そんなことはなく、「読者への挑戦」も含まれた王道本格ミステリーとなっていますので、是非皆さんにも挑戦してみてほしいと思う作品です。
話の展開に思わず「なるほど」とうなってしまう作品となっており、この作品がデビュー作というのも非常に驚きました。
一見すると意味のなさそうなシーンも、後で非常に重要なことが描写されていることもあるので、丁寧に読み込んで謎解きに挑戦してもらいたい作品です。
【感想、書評】『体育館の殺人』を読んで感じたこと
私がこの本を読んだきっかけは、休日に近くの図書館に図書館にふらっと立ち寄った際に、階段を昇って2階に行くと目立つ場所に置いて紹介されていたからです。紹介されている理由を見るとどうやら出身地が近所のようで、私も地元作家を応援したくなり手に取って読んでみました。
この作品も、各登場人物のキャラが確立されており、特に探偵役の裏染天馬のキャラは際立っており、頭がよく論理展開はすばらしいが人間性は・・・というところが個人的には非常に好きです。このキャラ設定でなければ私は後続の作品に手を付けず本作品止まりとなっていたかもしれません笑
裏染天馬を中心に、各登場人物とのやりとりも、つい読んでいてこちらもツッコミしたくなるような感じに仕上がっており面白かったです。
文章が軽快で読みやすく、普段推理小説を手に取らない人でもライトノベルの一形態としても楽しんでもらえる作品だと感じました。
後続の作品のタイトルが『水族館の殺人』、『図書館の殺人』と、すべて『館』が入っていたので、過去に読んだことのある綾辻行人さんの館シリーズみたいだなと思いましたが、完全に内容も作風も別物でした。私は綾辻行人さんの館シリーズも、青崎有吾さんの裏染天馬シリーズも両方とも大好きです。
推理の論理展開も明快で読んでいて気持ちいいので、青崎有吾さんの他の作品はどうなっているのかな、とか、他の鮎川哲也賞の受賞作品はどうなんだろうなと思い、色々なミステリ作品をもっと読んでみたくなりました。もちろんエラリー・クイーン氏の作品もです。
文庫版は、選考会で審査員からの指摘を修正したり、ロジックが改善されているので、今から読むなら文庫がお勧めです。
※私は解答編を読む前に推理してみましたが完敗でした。
レビューサイトでの評価をまとめてみました。読みやすい本格ミステリでキャラ設定が好きという声がある反面、ライトノベル感が強く軽すぎて、キャラ設定にも違和感があるという声もありました。
読みやすい本格ミステリを探していて、オタク趣味のある主人公に違和感を感じない方にはハマる作品になるのではと思います。
良い評価(他レビューなどから抜粋)
- ミステリの王道的展開で、事件や理路整然と展開される推理、伏線の回収、読者への挑戦など、本格ミステリとして楽しめる。
- 読者が推理しやすいように情報が盛り込まれているので、探偵側の立場で読みたい人にはオススメの作品。
- 登場人物のキャラクターが良く、各登場人物も個性があって面白いが、探偵の子の天才・アニオタという設定が好き。
- 著者と同世代だからか趣味が近いせいか、要所要所の発言(アニメのワンシーン)が面白い。
- 舞台設定、キャラクター設定、文章が学園物ライトノベルに近い作りとなっていて、状況を思い浮かべやすく世界観を簡単に受け入れることができ、気軽に読み進めることができた。
- デビュー作でここまでのクオリティが出せているのは十分凄い。
悪い評価(他レビューなどから抜粋)
- この状況で高校生が好き勝手に捜査しているところが非現実的で、臨場感をあまり感じなかった。
- 主人公のキャラ設定がライトノベルのテンプレートすぎ。ところどころ挟まるオタクネタがノイズになる。
- 登場人物が多すぎて一人ひとりのエピソードがなく、登場人物に感情移入しにくかった。
- 殺人する動機は弱すぎる気がしたのと、犯行後の行動は上手く行き過ぎているが引っ掛かった。
- 推されていた作品として期待しすぎた。中高生向きの軽いミステリーで、重厚な作品ではない。
- トリック、動機が微妙。
【発行、カバーなど】『体育館の殺人』の関係者の方の紹介
私が読んだ創元推理文庫の著者以外の情報は以下の通りです。
発行所:(株)東京創元社 代表者 長谷川晋一
カバーイラスト:田中 寛崇
カバーデザイン:西村弘美
まとめ
今回は、青崎有吾さんのデビュー作である、第22回鮎川哲也賞の受賞作『体育館の殺人』について、感想・書評を中心に紹介しました。
最初は地元出身の作家さんを応援しようと手に取った本ですが、登場人物のキャラクターや軽快なやり取り、そしてミステリ作品としてきちんと作りこみがされており、青崎有吾さんをもっと応援したくなりました。
読みやすい本格ミステリを楽しみたい方には是非読んでもらいたい作品としておすすめします!
他の作品についても以下に記載しましたので参考にしてください。青崎有吾さんの他の作品も読んで記事にまとめていきたいと思います!
【おすすめ】青崎有吾さんの他の作品を読む観る
今回紹介した『体育館の殺人』の著者である青崎有吾さんは、他にも以下の作品を執筆されています。
他の作品についてもすべて一度は読んでいて非常におすすめなのですが、記事としてまとめられていないので、感想などは同じように今後記事にしていきたいと思います。
『裏染天馬』シリーズ
『早朝始発の殺風景』
『11文字の檻』
『ノッキンオン・ロックドドア』シリーズ
『アンデッドガール・マーダーファルス』シリーズ
小説
コミックス
『ネメシス』
映画『映画 ネメシス 黄金螺旋の謎』にもなっているネメシスシリーズの本も執筆されています。全7巻で完結しているので、興味のある方は是非1巻から読むことをお勧めします。私はまだドラマのネメシスシリーズを観れていないので、これから観てそちらの感想等も記事にしていく予定です。